ふるやの森

あまり他で扱われていない事柄、個人的に書き留めておきたい内容など

マーセリンが飼ってる謎の犬「シュワブル」の話

マーセリンの周りには、時々謎の白い犬が登場します。

初めて登場したのは「パパは魔王」の回。冒頭、マーセリンの家の中にいる姿が見られますが、その後は全然登場しませんでした

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

再び登場したのが、stakesの第二話、マーセリンの過去編である「かわらないもの、かわるもの」。マーセリンが大人になった場面から登場し始めます。吸血鬼ハイエロファントがこの犬に化けたこともあり、それを見破ったトムの「シュワブルじゃないな!」というセリフから、犬の名前がシュワブルであることがわかります。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

最終回のエンディングにも後ろ姿が映っていました。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

何百年という時を超えてマーセリンと共にいる謎の犬シュワブル。ちらほら出てくるわりに、作中でその来歴が語られることもなく、「この犬っていったい何なんだ?」と感じていた人もいたと思います。

その正体は、「Adventure Time: The Enchiridion & Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」という本で明らかになります。この本は、前半はアニメにも登場する「教えの書(Enchiridion)」の中身が、後半はサイモンとマーセリンによって書かれた手記という設定の「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」が収録されています。

「Enchiridion」のほうは今回さておいて、「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」ですが、大筋はアニメ版「サイモンとマーシー」「かわらないもの、かわるもの」あたりで描かれた過去エピソードを日記形式の文章に置き換えつつ、ハンソンとマーセリンの共同生活や、マーセリンがヴァンパイア退治を決意するまでの経緯など、アニメ版では描かれなかったエピソードも多く含んでおり、とても興味深い内容です。絵や文章はそれぞれのキャラクターが手書きしたものという設定で、激しい感情を扱った場面では筆致が荒っぽく変化したりと、表現に臨場感があって引き込まれます。

この本に載っているシュワブルのストーリーはだいたい以下のような話です。先に結論を言うと、シュワブルは一度死んで蘇ったアンデッド犬です。

 

マーセリンはサイモンと別れ、その後父ハンソンを召喚して共同生活を始めるものの彼の人格に失望し、結局ナイトスフィアへと送り返してしまいます。独りぼっちになったマーセリンはショッピングモールの廃墟を訪れ、本屋の跡地で赤さび色の子犬と出会います。お互いの孤独に共感しあった二人は仲良くなり、マーセリンはこの犬を「ショッピングモールでお気に入りのデリ」から取ってシュワブルと名付けます(※名前の由来の意味は調べてもよくわからなかったのですが、アメリカにはSchwab Meatというお店があるみたいです)。

「Adventure Time: The Enchiridion & Marcys Super Secret Scrapbook!!!」より

その後マーセリンは友人のユニコーンをヴァンパイアに殺されたことをきっかけに、アニメでも描かれたようにヴァンパイア退治に身を投じることになりますが、ヴァンパイアキングに嚙みつかれ自らが吸血鬼化。赤い色に食欲を覚えるようになったマーセリンは、ある時、荒地で死にかける夢にうなされてシュワブルの赤さび色を啜ってしまい、意図せずしてシュワブルを瀕死の重体に陥れます。

魔法使いが再生の呪文や奇妙な生死の事象を取り扱っているというかつてサイモンから聞いた話を思い出したマーセリンは、シュワブルを救うべく魔法使いの長から死者を蘇らせる呪文を聞き出し、その儀式を実行、シュワブルを復活させることに成功します(※おそらく、マーセリンに色を吸われた当初のシュワブルはまだ死にかけだったが、儀式に取り掛かった頃にはもう死んでいたようです)。蘇ったシュワブルは「半分は本物の犬で、半分は幽霊」のような状態となり、色は真っ白になってマーセリンの食欲を刺激する心配もなくなり、愛するマーセリンと永遠に過ごすことになったのでした。

 

…というように、アニメ版では実に影の薄いシュワブルも、この本においては孤独だったマーセリンの心を満たした大事な友であり、物語のクライマックスを飾る重要なキャラクターになっています。

ただし、実のところ、このMarcy's Super Secret Scrapbook!!!」の内容はアニメ版での描写とは一致しない部分が結構多いです。シュワブルにしても、「赤さび色だったのが吸血鬼化したマーセリンに吸われて真っ白に変わった」というのが本でのストーリーですが、アニメ版「かわらないもの、かわるもの」を見るとマーセリンが吸血鬼化する以前からシュワブルは白い色をしており、表現に食い違いがあります。「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」は「stekes」が放送開始される一ヶ月ほど前に出版されており、アニメ版より一足先にハイエロファントやヴァンパイアキングへの言及があったり、stakesと内容をちゃんとすり合わせしながら作られたと思われるのですが…。このあたりの食い違いの謎はちょっとよくわかりません。

そういうわけで「Scrapbook」の内容をそのままアニメ版に当てはめるのは注意が必要ですが、とはいえアニメ版においてもシュワブルが過去にも現代にも登場している理由は、やはり寿命から解き放たれたアンデッド犬だから、ということで間違いないと思われます。

「Scrapbook」でのシュワブルとマーセリンの物語がなかなか良い話になっているだけに、アニメ版でシュワブルについての詳しい描写が存在せず「なんだかよくわからない変な犬キャラ」みたいな立ち位置になっているのは残念なんですよね。一話くらいシュワブルにフォーカスした回があっても良かったのでは、と思うところです。