はじめに
アドベンチャータイムきっての人気キャラ、ヴァンパイアクイーンのマーセリン。
意外に登場はツリートランクやランピーよりも遅かった彼女ですが、次第に物語における重要キャラに位置付けられ、次々と新しい設定が増えていきました。マーセリンの過去については、長期にわたって断片的に情報が明かされていったので、どんな人生を送ってきたのか、その全体像があまりつかめていない人も多いかもしれません。
この記事では、マーセリンの過去エピソードを時系列順に整理して、マーセリンの過去や父親ハンソンとの関係などを確認してみようと思います。
マーセリンの過去描写を時系列に並べる
・ナイトスフィアのハンソンの部屋には、写真(あるいは肖像画)が飾られている(43話Aパート「ナイトスフィアの支配者」より)。左は赤ちゃんマーセリンを抱くハンソン、真ん中は少し大きくなった幼児のマーセリン、そして右には、ハンソンとマーセリンそしてママらしき女性の合計3人が描かれている。マッシュルーム戦争以前の家族の姿を写したものに見える。
・マッシュルーム戦争以前は、家族でビーチへ行ったりしたこともあったようである(133話Aパート「近況報告」より)。このビーチの写真についての考察は後述。
・マーセリンが幼い子供のころ、地球でマッシュルーム戦争が起こり、環境が激変、人類は大きく数を減らす。ママとマーセリンは生き残り、母子ふたりで寄り添って生きることになる(105話Aパート「かわらないもの、かわるもの」)
・この頃から、ハンソンは母子の元からいなくなっているらしい。
・ママとマーセリンは、「秘密のパーティー会場(おそらく災害時の避難シェルター)」へと向かう。しかしママの体調がひどく悪化していき、いよいよ死期が間近になったママは、マーセリンだけを一人シェルターに向かわせる。しかしたどり着いてみるとシェルターの住人は全滅しており、結局マーセリンはひとりぼっちになる(遥か遠い世界で・2話「固い絆」) 。
・ひとりぼっちになっていたマーセリン、同じく崩壊した世界を旅していたサイモンと出会う。サイモンから、ぬいぐるみの「ハンボ」をもらう(52話Aパート「君を忘れない」)。
・最終回「冒険はつづいていく」では、マーセリンが戦争当時のことを回想するシーンがあり、炎上する都市が描かれている。マーセリンがハンボらしき人形を持っているので、これはサイモンに出会って以降の出来事と推測できる。サイモンと出会った頃にも、まだ戦争は続いていたのだろうか。
・サイモンとマーセリンはまるで親子のように親密になり、2人で有害な生物のうごめく危険な世界を旅する(59話Bパート「サイモンとマーシー」)。
・(マーセリンの外見の成長から判断して数年後)王冠によっていよいよ自我を失いつつあるサイモンが、マーセリンと別れる決意をする。「ある男が一緒にいてくれる」と言い残してサイモンは去る(105話Aパート「かわらないもの、かわるもの」)。
・サイモンの言った「ある男」とはマーセリンの父親、魔王ハンソン・アバディアだった。サイモンに召喚されてハンソンが現れる(138話Aパート「マーシーとハンソン)。
・マーセリンとハンソンは一時期、生活をともにするが、ハンソンがマーセリンのポテトフライを無断で食べてしまい、マーセリンの心を深く傷つけてしまう(28話Aパート「記憶の中の記憶」)。
・ハンソンはいなくなり、マーセリンは再び一人で行動するようになる。ヴァンパイアハンターとなったマーセリンは、倒したヴァンパイアの魂を吸収して透明化・浮遊などの特殊能力を身に着けていく。また、わずかに生存していた人間たちを発見、彼らと交流を深める(105話Aパート「かわらないもの、かわるもの」)。
・生き残っていた人間たちは大型船で別の島に行くことになるが、出港直前にヴァンパイアに襲撃され、マーセリンは人間たちを守るため戦う。最強のヴァンパイアキングと相打ちになり、キングの牙を受けたマーセリンはヴァンパイア化してしまう(106話Aパート「ヴァンパイアたちの復活」)。
・ライブに来たバブルガムにマーセリンが「ロックTシャツ」をプレゼントしたりして、2人の交際が始まる(遥か遠い世界で・2話「固い絆」)。バブルガムとの交際が、マーセリンのヴァンパイア化からどれくらい期間が経った時点なのか不明だが、ライブの観客にゴブリンや一つ目の怪物がいたりするので、地球が魔法と幻想の世界にすっかり変わった時期のようである。
・バブルガムとマーセリンが、ガラス王国を襲うドラゴンのラルボ対策に出向くが、ケンカになってマーセリンが絶交ソングを歌ってしまい、2人の仲が破局する(遥か遠い世界で・2話「固い絆」) 。
・マーセリン、魔法使いアッシュと交際し、一時期ツリーハウスで生活する。しかしアッシュが、マーセリンの大事なハンボを魔女に勝手に売ったことが決定打になって、別れる。
「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」で過去の謎が解ける?
ここまで、アニメに登場した情報をまとめてみましたが、マーセリンの過去について描かれている資料が他にもあります。「Adventure Time: The Enchiridion & Marcy's Super Secret Scrapbook!!! 」という本です。
以前のシュワブルについての記事でも紹介しましたが、この本に収録されている「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」は、サイモンとマーセリンによって書かれた手記という設定になっており、マーセリンとハンソンの一時的な共同生活の様子や、マーセリンがヴァンパイア退治を決意するまでの経緯など、アニメでは描かれなかった出来事も多く含まれていて興味深い内容です。アニメで「stakes」が放送される一ヶ月ほど前に出版されており、アニメ版では描き切れなかったマーセリンの過去編を補完する副読本としての意図があったようです。
ただ、実のところ、「Scrapbook」の内容にはアニメ版での描写と一致しない点もあるのですが、まあ現状で矛盾などが生じていない箇所については、本書の記述はアニメにおいても同様の設定だと考えていいのではないかと思います。
以下、マーセリン関係で、多くの人がおそらく疑問に思っている点について、この本でアンサーが得られた部分を質問・回答形式にしてみました(べつに誰に質問されたわけでもないのですが、この形式が書きやすいので…)。
戦争が起こる前は、ハンソン・ママ・マーセリンたちはどんな感じだったの?
当初、マーセリンは両親のことなど、自分の過去を何故か忘れているのですが、あとあと夢の中で記憶が蘇ってきます。
赤ちゃんだったマーセリンをハンソンが泣き止ませるためにしていた変顔、とても愛し合っているように見えたママとハンソンの抱き合う姿、ママがハンソンの強さについて「とてもいい感じ」で話していたことなどを、はっきりと思い出しています。ハンソンとママは愛し合っていて、ママはもちろんハンソンも我が子マーセリンに愛情を注いでいたようです。
またマーセリンは、両親と一緒にドライブ旅行で桟橋のあるビーチへ行った夢を見るのですが、これも単なる夢ではなくて事実のようです。後半、水着姿のママとマーセリンを写した写真が登場しています。両親と一緒に旅行した、という状況から考えれば、この母子の写真を撮影したのはハンソンだと思われます。
同様に、アニメ版「近況報告」の回に登場した浜辺のスナップ写真も、撮影したのはハンソンなのだと思います(ただしscrapbookの写真と水着のデザインが異なっているので、別の日に撮影した写真だと考えられます)。
ハンソンはママのことをどう思っていたの?
ハンソンはママがいかに美しかったかをマーセリンに話してくれて、ママを「美しく、優しく、素晴らしい存在(beautiful and sweet and wonderful)」と評していることが書かれています。
なんでママとマーセリンが大変な思いをしている時、ハンソンは傍にいなかったの?
この事はハンソンも気にしていたようで、ハンソンのほうから「私はお前を見捨てなかったことを知ってほしい。お前と別れるのがどれだけ辛かったか、お前には分からないだろう」「厳しい時代だった。お前の世界は終わりつつあり、私の世界は私がいなくなれば無法地帯になる」とマーセリンに語っています。
また、ハンソンはナイトスフィアが赤ちゃんにふさわしい場所でなかったという事実をすべての原因にしていたという文もあり、マーセリンはハンソンが自分を守ろうとしたのかもしれないと想像しています。
ハンソンの言い分から判断すれば、マッシュルーム戦争で地球が危機にあったものの、ハンソンは危険なナイトスフィアに母子を連れてくるわけにはいかず、また自身もナイトスフィアの統治から離れられなかった、という事情があったのでしょうか。
サイモンはどうしてハンソンをナイトスフィアから呼び出す方法がわかったの?
(長くなります…)
サイモンは、出会ったマーセリンの服のポケットに(ママによって書かれたらしい)メモ紙が入っているのを見つけ、紙にマーセリンを見つけた人に世話を頼みたいということと、父親はハンソン・アバディアだと書いてあったことから、ハンソンの名前を知ります。
サイモンは自分が王冠によって正気を失った時にマーセリンの世話をしてくれる存在が必要と思い、マーセリンと父親ハンソンを再会させようと考えます。
ある時サイモンは、魔物が廃墟の町にいるのを発見します。魔物と会話してみると、彼がナイトスフィアから来た者で、爆弾(おそらくマッシュルーム戦争で使われた兵器)が爆発した影響でサイモンたちの世界に吸い込まれたのだと聞かされます。サイモンがハンソン・アバディアの名を出すと魔物はショックを受け、急いでナイトスフィアへのゲートを開く儀式(おっさんの顔を書いてそこにミルクをぶっかけて呪文を唱えるという、アレ)を実行して、元の世界へ帰ってしまいます。
魔物の反応からハンソン・アバディアがナイトスフィアの住人であることがわかり、また、実はベティとともに魔法の儀式を研究していたサイモンにはこの儀式は見覚えがあるものでした。サイモンは以前ベティと共同で書き上げた「神秘の儀式およびとその時空的応用」という本(この本は77話Bパート『ベティ』にも登場してました)を調べ、ハンソンが平行次元ナイトスフィアの魔王であると推測、そして超自然的存在を地球へ呼び出すさまざまな儀式もその本に記録されていたため、ハンソンを呼び出す儀式を見つけ出すことができた、という話になっています。
また、ハンソンを呼び出すまでの過程が、アニメ版と「scrapbook」では大きく異なります。アニメの「マーシーとサイモン」回では、サイモンと別れてから、そう時間が経たないうちハンソンが現れており、マーセリンの元を去る直前にサイモンがハンソンを召喚していました。
対して「scrapbook」の描写では、ハンソンを召喚したのはマーセリンです。ハンソンの召喚方法を記した手紙をサイモンがマーセリンに書き残して去っており、マーセリンはその手紙を読むのですが、自分の父親がそんな強大な魔王であると信じられず、また何故自分を助けにこないのか疑問を抱きます。マーセリンは父親に会って話をしたい気持ちが生まれたものの、サイモンの記述を完全に信用しきれず、自分一人で儀式を試すべきでないと判断し、すぐには儀式を行わないことにします。その後、マーセリンは人狼(満月に狼に変身する人間)の兄妹に出会って仲良くなります。彼らに父親のことを打ち明けると、人狼族にもハンソンのことは知られており、もし人狼族にハンソンが与すれば彼らを脅かすヴァンパイアとの戦いに勝利できるかもしれない、と肯定的な反応が返ってきたため、彼らとともにハンソンを呼び出した、ということになっています。
マーセリンとハンソンは一度再会したのに、なんで別々に暮らすようになったの?
(また長くなります…)
マーセリンはハンソンと数日暮らしたものの、結局ハンソンの行動に怒ってナイトスフィアへと送り返したから、ということになっています。
マーセリンが期待をもって呼び出したハンソンは、いきなりマーセリンの友人である人狼兄妹の魂を吸い込んで、死体同然に変えてしまいます。ハンソンは生物の魂を吸い込むことを何とも思っておらず、さらにはマーセリンに「ヘイ、ベイビー」と声をかけて腕を回してくるなど、それまで生き別れになっていた実感などまるでないような慣れ慣れしい態度をとるのでした。友の生命を奪った父親を憎みながらも、自分自身のことはハンソンに聞くしか知る方法がない(※マーセリンはどうして自分がひとりぼっちでいたのか、両親はどんな人だったのかを何故かほとんど忘れている)ため、マーセリンは耐えてハンソンの機嫌をとることにします。
そうして一緒に過ごし始めると、ハンソンはマーセリンを気遣って話してくれるなど良いところも見えてきて、マーセリンの中にやはり父として慕う気持ちが生まれてきます。「まぎれもなく魅力的で、時には面白い人」と感じ、衝撃的な行動を起こすハンソンを「ある種の洗練された野生動物」とみなすことで、ある程度は理解できるようになっていました。ハンソンが遊園地の廃墟に連れて行ってくれて一緒に遊んだことは、マーセリンにとって楽しい思い出となります。
ところがその後、ヴァンパイアに脅かされている人狼たちを救ってほしいというマーセリンの頼みを聞いたハンソンは「助けたい」と言ってくれたものの、ハンソンの考えは「ヴァンパイアに殺される前に自分が吸収してやることが救い」という理屈で、残っていた人狼たち30人の魂をすべて吸い込んでしまいます。マーセリンは大きなショックを受けるとともに、ハンソンのことを「今まで目にしたなかで、最悪の存在」とまで感じます。
さらにハンソンと再会して9日目、わずかに残っていたポテトフライをマーセリンが温めて食べようとしていたのを、少しマーセリンが外に出た隙にハンソンが無断で食べてしまい、マーセリンは怒り悲しみます。マーセリンが泣いて出て行ったのに、ハンソンは追いかけることなくポテトを食べ続けるだけで、その姿は人狼たちを無情に吸い込んだときとマーセリンの中で重なるのでした。
そして10日目、ついにマーセリンは召喚した時と同じ儀式を再現してゲートを開き、ハンソンをナイトスフィアに送り返しています。ハンソンが厄介払いできて喜ぶマーセリンでしたが、その後はまたひとりぼっちの寂しさを強く感じることになるのでした。
ハンソンの斧って、いつからマーセリンのものになったの?
上にも書いた通り、マーセリンとハンソンは遊園地の廃墟を訪れており、その時にハンソンがマーセリンへ斧を手渡しています。ハンソンいわくこれは「邪悪な家宝、アバディアの斧」で、マーセリンへ渡したのは、彼女が十分な年齢になったからという理由でした。
なお「scrapbook」では、遊園地の場面で初めてマーセリンは斧を目にしているのですが、アニメ版の「マーシーとハンソン」回だと、ハンソンは斧を持った状態で登場しているので、細かい点ながら描写に違いがあります。
マーセリンの周りに現れるシュワブルって犬は何者?いつからいるの?
シュワブルについては、以下の記事にまとめています。
マーセリンはどうしてヴァンパイア退治をするようになったの?
マーセリンは、ハンソンと別れた後で犬のシュワブルを見つけ、さらにオスのユニコーンとも出会います(マーセリンはこのユニコーンをマッシュルーム戦争の影響で誕生した突然変異だと推測している)。
ユニコーンはダニエルという名前で、言葉を喋ることもできて、クールで落ち着いた性格であり、 マーセリンと仲良くなります。しかし、ダニエルがヴァンパイアに襲われて殺され、マーセリンはダニエルの仇討ちを決心、ヴァンパイアハンターとして戦いに身を投じていくことになります。
また、マーセリンはヴァンパイア退治を始める前に「初めてのヴァンパイアハント」などの本を読んで、戦闘法を独学で勉強しています。
そもそもヴァンパイアってどうして現れたの?
ハンソンがマーセリンに語ったところでは、ヴァンパイアは人間よりも古く地球上に存在していた種族で、氷河期の間は地下で冬眠していたそうです。
マッシュルーム戦争で人間が激減したのをきっかけに、それまで隠れるか冬眠していたヴァンパイアが活発に行動を始めたのかもしれません。
おわりに
以上、アニメ版および関連書籍「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」の情報をもとに、マーセリンの過去をまとめてみました。
改めて確認すると、「scrapbook」にはアニメ版では空白だった部分がほんとよく補完されています。scrapbookは読み物として十分満足できる内容になっていますが、ここまで構想があるなら、やっぱりアニメとして映像化して欲しかったな…とも思ったりします。
ただ、scrapbookが出版された2015年時点ではアニメ版の裏設定がちゃんと反映されたものだったとしても、その後のアニメ版の構想は結構変更されていってるんじゃないかと思うんですよね。scrapbookだと「マーセリンはサイモンと出会うまでの記憶があいまいで当初ママのことをほとんど思い出せず、なぜ自分が1人でいたのかを思い出せない」とされているのに、アニメ版のスピンオフ「固い絆」だとマーセリンは「幼少時にママに捨てられた」という認識をはっきり持っていて、過去を忘れているという設定は特に反映されていないように見えました。他にもハンソンとマーセリンの再会までの過程がアニメとscrapbookで大きく違うことは指摘しました。
このあたりの齟齬については、個人的には上で書いたとおり、現状で矛盾などが生じていない箇所については、scrapbookの記述はアニメにおいても同様の設定だと考えるスタンスを取っています。今後、またマーセリンの過去が何かしらアニメ化されたりしたら、やっぱりscrapbookの設定とは違った設定になるんじゃないかなあという気がしています。