ふるやの森

あまり他で扱われていない事柄、個人的に書き留めておきたい内容など

【海外漫画紹介】「BAGS (or a story thereof)」Patrick McHale・Gavin Fullertonほか

私はアドベンチャータイムと同じくらい「オーバー・ザ・ガーデンウォール」が大好きで、「OTGW」の監督であるパトリック・マクヘイル氏が原作を書いたグラフィックノベルがあるのを知り、面白そうなので買ってみたのですが、これが期待を裏切らず良かったです。

タイトルは「BAGS (or a story thereof)(袋、あるいはその物語)」。

Archaia社より、2019年7月23日に発売されました。

まえがきには、この本が出版されるまでのいきさつが書かれていました。

マクヘイル氏はアニメーションの仕事を今後も続けたいのか悩んで別の道を模索していた時期があり、その時に奥さんから小説家になってみたらどうかと提案されたのだそうです。本当に小説家として生計を立てるならすごい速さでたくさんの文章が書けなければならないだろうと考え、そんなことが自分にできるものか証明するために、1週間以内で完成させると期限を決めてはじめて書き上げた小説がこのグラフィックノベルの原型らしいです。

友人にこの小説のサウンドトラックを作ってもらうと思いついたところで「OTGW」のパイロット版を製作する機会が訪れたためその計画は中断し、「OTGW」が完成したのち、やっと「Bags」の本とサウンドトラックが完成して世に出たそうです。

そして編集者の人から小説を漫画化することを提案され、ギャビン・フラートン氏が翻案と漫画化を手掛けて、できあがったのがこのグラフィックノベルとなっています。

ストーリーを少し紹介します。

主人公のジョン・モッツという男が、飼い犬のベスがいなくなっていることに気づいたところから始まります(こんな外見だけど、ジョンは子供ではなく大人です)。

ベスは家のどこにも見当たらず、ジョンは探しに外に出ます。

「誰かがベスを盗んだのかもしれない」と思い警察官へ訴えようと考えますが、警察官は不在、次に、アドバイスをするのが好きなセイウチに助言を求めに行きますが、セイウチが言うことはよくわからない内容で、ベスの捜索には役立ちません。

そうしていると、乱暴そうな子供たちから「おじさんの犬が森の中へ入っていくのを見たよ」という情報を得たジョンは、急いで森の中へわけいります。

森の空き地にあったのは、屋根瓦は肩甲骨、雨戸は肋骨、ノッカーは人間の頭蓋骨で作られている「骨」でできた不気味な家でした。骨が好きだったベスはもしやこの中に…?

「待て、ジョン」。呼び止める声のほうを振り返ると、警察官の姿がありました。警察官にとってこの家の存在はどうやら秘密であり、ジョンがこの家に入ることをひどく恐れていました。

警察官は秘密を知ってしまったジョンを排除しようとする素振りさえ見せますが、ジョンが隙をついて家の中に入りこむと、あきらめて去っていきました。

虫の羽音があちこちから聞こえてくる、真っ暗な屋内。

そこにいたのは、悪魔でした。

「怖がることはない、君が遊びにきてくれてうれしい」「あなたは誰?」「悪魔だよ。でも悪いものじゃない」。

「私は君の犬がどこにいるか知っているし、君を犬のところに連れていくこともできる。その代わり、手伝ってほしいことがあるんだ。今はお互い助け合えないかな」

見た目は怪物でこそあるものの、友好的な態度で接してくる悪魔は、ジョンに取引を持ち掛けてくるのですが…。

(ここまでストーリーの紹介は終わります。できたらこの先は実際に読んでみて欲しいです

 

内容はOTGWに近いダークなファンタジーで、こういうのが好きな人はすごく気に入るんじゃないかと思います。紳士的な悪魔(Devil)は、やっぱりOTGWのビーストを想起させますね。

骨とか悪魔とかホラーな要素はありますが、残酷でショッキングな描写などはないので、安心して読めるのも良いところです。

ただ、飼い犬の失踪という、ミステリー風な導入から始まってはいますが、謎がだんだんと解かれていって知られざる真実が明らかになる…というような理路整然としたミステリーでは全然ありません。最後まで読み終えても、かなり謎の多い話です。

「これはどういう意味なのか?」「なんでこうなるのか?」と作中の描写に明確な答えを求める人にとっては、あんまりピンとこないかもしれません。悪く言うと、思わせぶりな謎めいた描写ばかりの、奔放な筋書きです。

実のところ、本作って「夢の論理」で描かれていると思うんですよね。おそらく、内田百閒の夢小説みたいに、夢とは言っていないけど夢の中の出来事を描いてるんです。

有名な「不思議の国のアリス」には喋る動物がたくさん出てきますが、あれはアリスが見た夢という設定でした。本作にも喋るセイウチが出てきたりなんかして、「アリス」っぽいのですが、やはりアリスと同じく夢の話なんだと思います。

詳細は伏せますが、主人公のジョンは当初探していたものとはまったく違うものを得るんです。当初の目的は叶っていないんだけど、そのことについて何故かジョンは落胆したりはしていなくて、読んでいる側もなんだか納得してしまいます。そういう感覚が夢っぽいなあと思うのです。眠って夢を見ているそのときは、現実的にはありえないことが起こったり、自分がおかしい思考をしていても、それをヘンだと思わなかったりしますよね。その感覚を再現してるんだと思います。よくわからない部分が多いのも、夢だからそういうものなのでしょう。

ある種いきあたりばったりとも思えるストーリーなのに、それが読者をシラけさせる出来になっていないのは、一つ一つのシーンに緊張感があって、説得力のあるものになっているゆえですね。

本作の特徴的なのは、何か恐ろしいことが起こりそうな不穏さと、淋しくノスタルジックなムードです。OTGWの9話に登場するワートたちの世界も80年代くらいが舞台に見えましたが、マクヘイル氏は昔のアメリカに憧憬があるみたいです。上に画像をいくつか載せていますが、昔のアメリカンコミックを思わせるレトロなグラフィックが素晴らしいです。カッコいいし、どこか懐かしい。親しいものとの離別や孤独感を扱ったストーリーにも良くマッチしています。

普通に本屋で売ってるような本ではないし、英語版しかないので、是非読んでみて…とは気軽に言えないのですが、ダークな作風が好きな人や、もちろんOTGWのファンにもおすすめですよ。