今回紹介する本は、「The Adventure Time Encyclopaedia」です。

つまり「アドベンチャータイム百科事典」ですね。
裏表紙の説明には、「悪の帝王ハンソン・アバディア (別名、ヴァンパイアの女王マーセリンの父)自身が、ナイトスフィアの悪魔の住民たちを指導し、混乱させるために記した『The Adventure Time Encyclopaedia』は、 おそらく、歴史上で最も危険な本である。一見、ウーの国とその終末後の住人へのガイドブックのように見えるが、実際は文学的な陥穽、大げさな難問、 読者を狂わせるために書かれた古代のテキストが満載の愉快な悪夢なのだ」…とあります。
そう、本書は、マーセリンのパパにして魔界ナイトスフィアの領主ハンソン・アバディアによって書かれた辞典であり、それをナイトスフィアの言語学者マーティン・オルソンが英語に訳したという体裁になっています。

イカした写真だね!と喜ぶマーセリン、自分の姿を落書きするフィン、それに「やめろよ売る時に値段が下がるじゃねえか!」と怒るジェイク…。
このマーティン・オルソンとは、どなたかというと、本国のアドベンチャータイムでまさにハンソン・アバディアの声を演じている人物。さらにいうとマーセリン役のオリヴィア・オルソン氏の父親(※厳密に言うと養父)でもあります。
知っている人も多いと思いますが、ハンソンとマーセリンを演じているのは、実際にマーティンとオリヴィアという親子なんですね。
ハンソン役の人がなりきって本を書いてるの?…と驚くかもしれませんが、マーティン・オルソン氏は、コメディ作家・テレビプロデューサー・作曲家と多くの肩書を持つ多彩な才能の持ち主。「ロッコーのモダンライフ」「キャプテンラズロ」「フィニアスとファーブ」などの作品では脚本も担当しています。本書の執筆も、彼にとってはお手の物だったのではないでしょうか。
ちなみに、オリヴィアがATに出演したきっかけも、マーティンが脚本を書き、オリヴィアもヴァネッサ・ドゥーフェンシュマーツの声で出演していた「フィニアスとファーブ」だったそうです。ATの原作者ペン・ウォードが、マーティンに「ヴァネッサ役の子に出演してほしい」と連絡を取ってきたことがきっかけになったんだとか。ペンさんは、その子がマーティンの娘だとは知らなかったそう(出典:https://www.themarysue.com/olivia-olson-interview/)。
また、巻末を見ると、ペンドルトン・ウォード、ケント・オズボーン、ナターシャ・アレグリ、パトリック・マクヘイル、トム・ハーピッチ等々、主にアニメ版のスタッフ各氏数十人が協力者としてクレジットされており、執筆にあたって彼らからネタ提供を受けているようです。
それゆえ、本書の内容はめちゃくちゃディープでマニアック!AT関連書籍のなかでも抜群の読み応えを誇ります。
アニメでは数話しか登場しないハンソンが、この本の中では(ある意味)大活躍しているわけで、その意味でも貴重ですね。
前置きはここまでにして、この本にどんなことが載っているのか、以下に紹介していきましょう。
第一の書「ウーの土地の無価値な住人」。
導入部には「悪の王として、ウーの土地のすべての卑しい住人を軽蔑することも私の職務のひとつである。彼らは良く言っても取るに足らないブヨであり、最悪の場合、血がにじみ出るいまいましい肉の管である」と、ウー大陸の住人のことをハンソンがさんざんな言い方をしてますが、いまいましさの度合いがまだマシな人々として、メインキャラクターがこのパートで紹介されています。
まずは、主人公フィンの項目。
これがまた人物評として面白くて、フィンのパーソナリティがだいたい正確に言い表されてます。

「不快な、細い腕を持つ人間の少年、マッシュルーム大戦争後の最後の人間だ。吐き気を催すような本質にもかかわらず、人の子フィンは、ウー大陸全体で 2 番目に重要な人物である」
「目を細め、揺れ動く未来の時間の輪を見渡すと、人の子フィンはハートの中に(あるいは脇の下に。どちらだったか忘れた)パワフルな秘密を抱えており、それがウー大陸に住むすべての人々の運命を変えることになるようだ。まあ、私が完全に間違っているのかもしれないが…」
フィンに対して軽蔑の意を隠さない一方、ウー大陸のすべての人々の運命を変えるほどの何か秘密があるのではないか…と、その存在の特異さと神秘性に触れたワクワクする紹介になってますね。
とはいえマーセリン以外のウー大陸の住人は基本的にゴミというのがハンソンの認識なので、フィンに対しても「彼はウー史上最高のヒーローになりたいと思っているが、残念ながら、彼は知能スコアが愚か者レベルというハンディキャップを負っている」「無意味な人の子、愚か者、未来のチリの山、無に等しい存在」などとこっぴどい形容がされてます。容赦無さ過ぎてもう笑ってしまうんですけど、ちょっと差別的でドギツい感も。まあ、あまり良い子向けの本ではないですね。
「なぜ人の子フィンは、何度もバカげた危険に身を投じるも死なないのだろうか?答え:人の子フィンには不滅とでも言うべき何かがある」など、いわゆるフィクションのお約束・主人公補正についてのツッコミがあったりするのも面白いです。
さらに、フィンたちメインキャラには「10の秘密」が明かされているんですが、フィンの場合、「彼の好きな食べ物はミートローフである」といったまあ普通に見てたら知ってるよ、というレベルの秘密から、「フィンは虹彩異色症である※」というすごい細かいネタまで拾ってあるのが感心するところ。
※シーズン1の「教えの書」で、フィンが妖しい男から催眠術をかけられたときに、フィンの両瞳がそれぞれ青と緑のオッドアイで描かれているのに由来するネタ。
こういう調子で、マニアックな知識と皮肉を交えた人物紹介が続きます。
ちなみに、興味深い記述として「人の子フィンの歴史」というコーナーで、フィンがジョシュアとマーガレットに拾われた時のことが書かれているのですが、「犬のカップルはそれまで人間を見たことがなかったので、彼は奇妙な泥魚(mud fish)の一種だと思った。そしてそれが、彼らが彼をフィンと呼んだ理由なのだ!」とあります。つまり、フィンという名前がサカナのヒレ(Fin)に由来すると説明されているんですね。
本書の後に放送されたアニメ版シーズン8では、実の両親から既にフィンと名付けられていたことが明らかになったので、この記述は食い違っているのですが、まあハンソンが書いてることは元よりウワサ話に過ぎなかったと解するべきなのでしょう。
次にフィンの相棒ジェイクですが、ハンソンはジェイクに興味がないらしく、「汚くて臭い雑種の犬なんて誰が気にかけるだろうか?」「ノミだらけの生き物」「バカな犬」と、ジェイクに関しては特に全体的にすげない記述が目立ちます。
ジェイクがミーモウに毒を注射されるも命からがら助かった体験を「残念ながら、彼は死ななかった」とか、いちいちひどいw!
いっぽうプリンセス・バブルガムについては…「このむかつくほどかわいい生き物のフルネームはプリンセス・ボニベル・バブルガムで、「PB」や「ボニー」、時には「ピーブルズ」と呼ばれることもある」「プリンセス・バブルガムは慈悲深き支配者で、その魅惑的な愛らしさは、私を含め、ナイトスフィアのすべての悪魔を撃退する」と、PBのキュートさをやたらと高評価しています。バブルガムのかわいらしさには、ナイトスフィアの魔族も参ってしまうほどらしい…。
ところが、さらに読んでいくと「私がついに Ooo の国を征服し、その卑劣な住民を奴隷にしたその時に、最初に破壊する生き物だ」と、実はハンソンはPBを目の敵にしていることを明かす衝撃の告白が!
いわく、「彼女の肉、目、髪、内臓はキャンディーで出来ているのが気持ち悪い」…からだそうです(いくら可愛くてもガム生物なのがダメなのか…)。

ではでは、愛娘マーセリンについてはどうかと言うと、「私の素晴らしき邪悪な子、マーセリンは我が闇の宝物であり、ナイトスフィアの乾燥した庭園に咲く恐ろしき黒薔薇である」と、詩的な表現で流石にわが子可愛さが溢れた記述!ん~、ハンソンが愛情を注いでるのがわかってほほえましい!
なお、ハンソンとしては娘への愛情があるゆえに彼女の人生について父親の欲目なく記述することができない、ということで、代わりにマーセリンの人となりがわかるものとして、マーセリンが特集された雑誌の切り抜きなどが貼り付けられていたりします。こういうディテールも凝っていて雰囲気が出てますよね。

あと、面白かった部分としては、マーセリンの「10の秘密コーナー」のなかの「皆さんご存知のとおり、彼女の首には今や2つの傷跡がある。しかし、私がその理由を尋ねると、彼女は話すことを拒み、私たちは初めて死闘を繰り広げることになった」という記述。
この本の出版時点ではマーセリンがヴァンパイアになった経緯は明かされていなくて、後にシーズン7のstakes編で判明するわけなのですが、どうやらマーセリンがヴァンパイア化したのは大人になってからで、ハンソンと別々に暮らしていた時期にそれが起こったようだ…ということが既に示唆されていたんですね(そういえばハンソンがマーセリンがヴァンパイア化したことをどう思ってるのかはアニメでは触れられてないところだなあ)。マーセリンに尋ねたら、答えるのを拒まれて死闘に発展したとか、モンスターなこの親子らしいというか、こういうアニメで語られないサイドストーリーが読めるのが魅力ですね。
ただ、ちょっと整合性が取れてない所もあって、マーセリンの秘密コーナーには「マーセリンが子供のころ、彼女が空中に浮いたりできることが分かった」とも書かれているのですが、マーセリンの浮遊能力はアニメでは吸血鬼フールを吸収して得たことになっているので、子供のころから浮遊できたというのは矛盾するんですよね。まあやっぱりATは最初からガチガチに設定を組んでる作品ではないので、関連書籍にはこういう矛盾がチラホラあります。
この第一の書では、他にはアイスキング、レディレイニコーン、ランピーなどが紹介されています。
しかし、フィンやジェイクへの雑言はまだ序の口。
続く、第二の書「ウーの地のまったく取るに足らない住人」では、サブキャラたちに対するハンソンのさらに辛辣きわまりない人物紹介が展開されます。
このパートでは、バナナマン、虫のベラミー、ジグラー、シェルビー、ゴリアド、パーティーパット、ランピーの両親、キーパー、クモ夫婦、ドア怪人、ブラストロノート等々、かなりチョイ役にすぎないマイナーなキャラまでイラスト付きで載っていて、見てるだけで楽しいんですが、それぞれのキャラクターへのハンソンの紹介が所々すごい!(ひどい)。
例えば、ブタさん(Mr.pig)については「この下劣な豚のような間抜けは、ツリートランクとして知られる忌まわしい存在を愛している」とか、ガチョウ店長については、「韻を踏んで話す才能のために、即刻処刑すべき鳥として指名する。不愉快でオシャベリな鳥。読者よ、その顔を見てみるのだ。その鳥を今すぐ油で揚げてフェレット家族の餌にすべきでないかと正直に言ってくれ」とか、ホットドッグナイトたちを「私のウー大陸侵略後には、マスタードが供給でき次第、悪魔軍が丸ごと食い尽くす最初の種族になるだろう」とか、ジャーメインを「ジェイクの兄弟。そして世界の歴史上もっとも退屈な汚い犬」とだけ言い捨ててたり、も~、毒舌ぶりがすさまじい!
こういう妙に硬い文体でものすごい悪罵の言葉が書かれてたりするのって、やっぱり翻訳文学ならではのユーモアという感じがしますね。日本語ではあまり聞かないであろう言い回しがいちいち面白くて大いに笑えます。
あと、ペパーミントバトラーについて「ナイトスフィアのセレブリティゴルフオープンでは部下として働いてくれた」と書かれてたり(そいえばゴルフやってるハンソンとペパーミントバトラーが一緒に写ってる謎の写真がナイトスフィアにありましたよね)、死の国の王の項目では「初めて参加したカバーバンドのドラマー。私より上手かったのでグループから追い出した!」と、実はハンソンと死の王がかつて一緒にバンドやってたことが判明したり、アニメ本編では描かれないハンソンと他のキャラの関係性が垣間見れたりします。
特に笑ったのが、マーセリンの元カレ・アッシュの項目。「私の娘の哀れな元カレであり、ウーの景観に汚点を残した人物。私はこの無能な愚か者に関する印象的な記事をまとめ、ここに掲載する」として、悪行のために逮捕されたアッシュの新聞記事が挿入されたりしてます。ある意味優遇されてるな、アッシュ!

第三の書は「ウーの国と君」。
上でもちょっと触れたんですが、この本によれば、ハンソンはウー大陸とその住人をかなり疎ましく思っているそうで、ナイトスフィアの悪王としてハンソンの目標は、ウーの全生物の魂を吸い取ることと、ウーの地を消滅させ地球をウーの影響から完全に解放することだと語られてるんですね(って、そんな野望を抱いてたのかハンソン!)。
このパートでは、ハンソンが手下の悪魔たちへ侵略目標のウー大陸のことを理解させるための資料として、バブルガムが作ったウー大陸のトラベルガイド・マーセリンの旅行ブログが載っており、各地が紹介されています。
キャンディ王国やコブコブ星、ブレックファースト王国などを紹介しているPBのトラベルガイドはカラフルで明るいデザイン。これまでのページと比べてだいぶ常識的で平和な内容ですが、ホットドッグ王国を「予算が限られている旅行者」向けのリーズナブルな観光地として紹介してたり地味に見下しが入ってるのが笑ってしまう。

マーセリンの旅行ブログは、悪魔のバックパッカー向けに書かれたという設定なのでゴブリン王国、墓地、ノームの地下世界、死の国やビュートピアなど薄暗い方面をカバーしてます。
フィンとジェイクたちが住むツリーハウスのある草原も紹介されていて、「アタシはこの日常から逃れるために引っ越して素敵な洞窟を見つけたんだ。虹や青い空や緑の野原は、アタシには時々やりすぎに感じられる…」と、マーセリンが草原のツリーハウスを出ていった経緯もちょっと触れられてたりします。
あと、「アイスキングの手作りZINE」と「ビーモの取り扱い説明書」が何故か載ってるんですが、個人的にイチオシなのがこのビーモの取説!水がかかったりワニに噛まれたりしてるビーモのイラストが(可哀そう)可愛い!
ちなみに、「警告」の部分に「ビーモはくすぐられると激怒することがあり、電源コードを引っ張ろうとする者に対しては極度の暴力を振るう可能性があります」なんて書かれてました。商品として危険すぎるだろ!

ビーモは韓国なまりの英語でしゃべっているからです
第四の書は「ウーの失われた文書」。
このパートでは、古文書の断片・ポリスウィザードによって消去された呪文・秘密のカタログを復元させたものというのが掲載されています。
「教えの書」の断片や、ハンソンの経営する企業(!?)アバディア・インダストリーズの魔法カタログ、あとレディとジェイクが書いたらしい「ウーの国の呪文と秘密♡」の切れ端などですね。
このパートに限ったことではないんですが、本書は挿入されているイラストがあえていつものアドベンチャータイムの絵柄になっていないのが、新鮮なんですよね。「教えの書」の断片も、本当にヨーロッパの昔の魔術書みたいな壮重さがあって素敵です。

ハンソンの会社の魔法カタログも、なんかレトロな雰囲気になってて良いですね。載っている魔法も、マヨネーズを出す・影を操る・手を剣にするとか、「魔法使いになりたい」などの魔法使い関係のエピソードで登場したものがよく見るとチラホラ。

さて、あと「ウー百科事典の禁断の章」という第五の書が残っているのですが…コレがいろんな意味で衝撃的な内容になっています。
もったいぶるようですみませんが、紹介はここまでで、第五の書の内容はぜひこの本を実際に入手してその目で確かめて頂きたいと思います…。
というわけで、文章もイラストも盛りだくさんで、ボリュームたっぷりな大満足できる一冊。
アドベンチャータイムの関連本のなかでも特にオススメな一冊であり、特にハンソンとマーセリンの親子関係に興味がある人は是非読んだほうがいいでしょう!
余談ですが、この本のCMがyoutubeで公開されています。
これがまた、かわいい映像なのでぜひ一度見てみてください。↓