これまで3回にわたってATの無印コミックシリーズの紹介を書いてきましたが、今回がいよいよラスト。
6年間続いた「もう1つのアドベンチャータイム」は、どんな終わりを迎えたのか?
無印コミックシリーズの最終号であるIssue75を紹介。
※今回は最後まで紹介してますのでネタバレにご注意。
物語は、未来のウー大陸から始まる。
ビーモは森で焚火をかこみながら、子供たちにお話を聞かせていた。
フィンとジェイクのお話をせがまれたビーモは、まだ1つ残っていた、とっておきのお話を語り始める…。

むかし、ケイシーという名の子犬が、スケボーで遊んでいてポプリの地に飛び込んでしまい、侵入者として捕えられた。
ポプリとは、ウーの国々の向こう側にある土地。
ウー大陸の王国中から迫害された故郷なき人々が寄り集まって作った国であり、ポプリの女王はケイシーをスパイとみなし、これを自国への宣戦布告だとして厳しく対応する。ケイシーの友人ジェイクは、彼を救出するべくポプリへと出発!
ケイシーは牢獄に放り込まれたが、そこで見張りのIBBという少女と出会う。すぐに思いが通じあい、2人はいい雰囲気になっていく⋯。

そのころ、フィン・ジェイクを伴ってやって来たバブルガムは、ポプリの女王にケイシーの釈放を要求するが、女王は応じず交渉は言い争いに!
このままポプリとキャンディ王国で戦争か⋯と思われたその時、ケイシーとIBBが現れる。実はIBBはポプリ女王の娘であり、プリンセスだったのだ!
IBBは、プリンセスの名のもとにケイシーを自由にすることを宣言!ケイシーは解放され、戦争も回避された。仲むつまじい2人を見てしまったら、あれほど怒っていた女王も許すしかない。めでたしめでたし!
フィンとジェイクがまたしても窮地を救った、最高の物語だね!…とまとめるビーモだが、子供たちの反応はいまひとつ。ケイシーとIBBのその後が知りたいというので、ビーモはさらに続きを語り始める。
その後、二人は一緒に暮らす家を探すことになった。しかしIBBの選んだ家がケイシーは気に入らず、さらに、IBBが家に秘密の地下室を作り、ケイシ-を中に入れようとしない!とうとう不満を爆発させたケイシ―に、IBBはついに地下室の秘密を見せた。実は、地下にあったのはケイシーへのサプライズのプレゼントであるスケボーのコースだった!二人は無事に仲直りして、めでたしめでたし…。
ところが、ビーモの話を聞いていた子供たちはあまり感銘も受けず、それで終わりなの?という反応。いやいや、これまでが第二幕。次の第三幕こそどんでん返し、二人はなんと「結婚することになった」とビーモは明かす!
ケイシーとIBBは結婚することになり、皆で彼らの結婚式の準備に取り組んでいた。フィンとジェイクは、ケイシーたちが結婚することを書いた大きな幕を作ることを任される。
しかしあたりを見回してみると、ランピーはイス並べの監督、バブルガムとマーセリンは物品のチェック。それに比べて、自分たち2人は、バカでもできる簡単な仕事をケイシーから任せられたんじゃないか?だいたい、結婚することを書いた幕だなんて、ここの出席者には2人の結婚はわかりきった事じゃないか!
怒って仕事を放りだしたジェイクは、自分の率直な気持ちを相棒に語り出す。

ケイシ―は本当に成長した。いま自分はそんな彼らの結婚式に来た。しかし彼らが成長し変わっても、自分のほうは、まだ犬のジェイクのまま…。自分のことは好きだし、イケてると思う。そしてケイシーが成長して変わったことも素晴らしいと思う。でもなぜ自分はそのことに落ち着かない気がして、満足できないのか…。
だがフィンはジェイクにこう語る。自分はジェイクがあまり変わってなくて良かった、ありのままのジェイクが大好きだから!ケイシーが自分たちに簡単な仕事を任せたのは、きっと大切な友人のジェイクに仕事で気を取られてほしくなかったのだろうと。フィンの話を聞いて、ジェイクの不安は見事に消えた!
フィンとジェイクが作った幕を見て、ケイシーは喜んだ。この幕は写真を撮るときの背景にするもの。だからジェイクには最も重要な仕事を任せたつもりだったのだ。そうなんじゃないかと思ってたぜ…と嬉しがるジェイクだった。

さて、いよいよ式が執り行われる。
ケイシ―とIBBは出会ってから今日までの道のりを語り、お互いの良い所を述べあって、そして結婚式の最も重要な場面に差し掛かった。
人生は冒険、それを二人で分かち合うことを誓い合う二人。
だが、キスするその前に、「もう一つ聞いておきたいことがあると思うの」と言うIBB。そしてジェイクに話を振るケイシー。
ケイシー「君のためにね、バディ」
ジェイク「ああ、来たぜ来たぜ…!」
ケイシー&IBB「いま何の時間?」
「アドベンチャータイム!」

ビーモのお話はこれでおしまい!
しかし聞いていた子供たちはまだ物足りなそうで、もっとほかのお話を聞きたいとせがむ。フィンとジェイクがタイムトリップした話やアイスキングの奇妙なダンジョンの話やフィンたちが月に行った話や史上最高のプリンセス決定戦の話を…。
1人の子供がお話が終わってほしくなかったと残念がったのを、ビーモは否定する。お話は終わりじゃない、今夜最後のお話が終わったというだけで物語は常にあるんだ、明日の夜にはまた別の話を聞かせてあげる!…と。
そうしてビーモたちがすっかり寝静まったあと、バブルガムとマーセリンが姿を現した。こっそりビーモの語りを聞いていたのだ。
良いお話だった、ビーモは上手に話していたと評するバブルガムだが、マーセリンはエンディングが気に入らないという。だいたいマーセリンは、エンディングってものが嫌いなのだ。だって、自分たちはまさにエンディングの真っ最中にいる!今日という日からは、もう物語も、可能性も、興奮もなくなってしまった…。
しかし、バブルガムは言う。確かに今日という日は終わった。しかしこの思い出はずっと残り、どんな人間でどんな気持ちだったか、それは自分たちの一部となる。それに物事は必ず終わらなければならない、そうでないと行き詰って決して成長できないから!
私たちは長年にわたり問題(Issue)を抱えてきた、数えたところ75個…でもそれがあったおかげで私たちはより良い人間になれた。ひとつの冒険が終われば、また新しい冒険が始まる。それは決して変わらない。
「さあマーシー、あなたに見せたいものがあるの」
「何を?」
「まだわからない。何か新しいことだと思うわ…一緒に見つけに行きましょ」
「あのさ、ボニベル…」

「アタシとあんたならやれるよ!」
「マーセリン!」
月に向かって飛んでいく二人を描いて、おしまい。
決して「世界の存亡を懸けた戦い」みたいな壮大な話ではないけれど、小さな贈り物のような素敵なお話。
私はこの最終回がとっても好きなんですよね。
クライマックスとなるのは結婚式のくだりですが、列席者たちの顔ぶれを見てみると、これがシリーズを彩ってきたコミック版ATのキャラたちが大集合!
ケイシーとIBBの結婚式になんでこんなに多くの人が集まってんだよ?なんてツッコむのは野暮で、これは実質は読者に向けたカーテンコールでしょう。デザートプリンセスにウォータープリンセスにヤツメウナギプリンセス、マギー、Ewlbo、アドベンチャーティム、さらにはニーモノイドまでいたり、初期のほうからずっと巻を追って読み続けてきた読者には嬉しく感慨深いもの。
さらに、この最終回は三部構成でそれぞれ脚本と作画が違っていて、冒頭からケイシ―の解放までを描く第一部はクリストファー・ヘイスティング氏とザカリー・スターリング氏、ケイシーとIBBの家探しと和解までを描く第二部はマリコ・タマキ氏とイアン・マクギンティー氏、そして結婚式からラストまでの第三部はライアン・ノース氏とブラデン・ラム氏&シェリイ・パロライン氏のトリオが執筆という、シリーズを代表する執筆陣による合作になっているんですね。
これまでの紹介記事で書いてきたように、この無印コミックシリーズは何度か脚本と作画が入れ替わってきたのですが、ライアン・ノース氏ら途中で降板したアーティストがこの最終回においてカムバックしてくれているというのがあまりに粋で嬉し過ぎる!
で、あらすじを読んでみて、なんとなくわかると思うのですが、アニメ版の最終回「冒険は続いていく(Come Along with Me)」と似ている部分が多いのも注目ポイントです。
フィンとジェイクもいない未来の世界で、ビーモが語り部としてかつての友人たちの冒険を子供たちに語り聞かせる…という「冒険は続いていく」で描かれたストーリーと同様の展開(フィンとジェイクは既に亡くなってるんだろうなー…)。
このIssue75は2018年4月25日発売で、アニメ版最終回の放送は2018年9月3日なので、アニメ版より約4ヶ月先んじて発表されており、おそらく、アニメ版の最終回がどんなストーリーなのか事前にある程度教えてもらっていたんじゃないかな、と思います。
「冒険は続いていく」もそうなんですけど、こういう「未来の時代に、主人公たちが生きていた日々は過去の伝説として語られている」というシチュエーションに私はヨワいもので、なんともグッときてしまいますね…。
また、コミック版ATは、「アニメ本編にありそうな(あってもおかしくない)お話」をずっと描いてきたわけですが、興味深いのは、この最終号では、フィンの右手は第一幕では生身の手なのに、第三幕の結婚式の場面ではアニメと同じ、バブルガムが作ってくれたあの「義手」が装着されていること!
これは「コミック版ATはアニメ本編に繋がる話なのだ」という改めての主張なんだと受け止めました。このIssue75の未来世界は、アニメ本編の1000年後の世界より少し前を描いていて、やがてあのシャーミーとベスの時代に続くんじゃないか、という想像も膨らむところです。
あと、私はケイシーとIBBの恋物語もなかなか好きで。まあポッと出のキャラなので、あまり深く思い入れるには至らないとこはあるんですけど(最終号で初登場したキャラなのにジェイクの昔からの友人という扱いなのが中々強引ではある!)結婚式の日くだりなんてやっぱり感激しちゃいましたね。新郎新婦の誓いの言葉が「私の人生はアドベンチャー。それを分かち合いませんか?」だなんて、ATらしくてすごく素敵じゃありませんか!
また、ここで初めて登場してきたポプリの土地も、「ウー大陸の数々の王国には居場所がなかった人々が集まった場所」という、バブルガムやその友人たちが治める華やかな王国の影に隠れた世界を描いており、なかなかリアリティの感じられる設定でATの作品世界を見事に広げていると思います。最終回で話は収束に向かうどころか、さらに世界が拡張されていくのもまあATらしい。
ちなみに、ビーモのお話を聞いているなかに王冠を被った青い子供がいるのですが、この子はおそらくケイシーたちの子孫のポプリの王族と思わしいです(なのに自分の祖先であろうIBBとケイシーの物語にはあまり興味を持ってないあたりがちょっと笑えてしまうところ)。
そしてトリを飾るのが、バブルガムとマーセリンの登場。
以前のニーモノイド編では、未来のバブルガムとマーセリンは、キャンディ・ヴァンパイア王国を共同で統治しているという将来像が描かれており、バブルガムの傍らには常にマーセリンがいましたが、この最終号における2人の姿はニーモノイド編とそのまま繋がるイメージです。
おそろいの制服に身を包んだバブルガムとマーセリンの姿は、おそらく二人が婚姻かそれに等しい深い関係で結ばれていることを示すものでしょう。
フィンもジェイクもいなくなってしまった遠い未来の時代でも、この2人の関係は変わらずに寄り添って生きていること…これを最終号ラストに持ってきたライアン・ノース氏のPBたちへの思い入れの強さは相当なものを感じますね。いや、ほんと~に最終号にノース氏がカムバックしてくれて、バブルガムとマーセリンの物語に花道を用意してくれて、よかった!!
ただまあ、ちょっと弱点を言うと、アニメの最終回と同じなんですが、主人公であるフィンとジェイクの扱いが小さく、この二人が主題のお話ではないことでしょうね。なにしろ主題はIBBとケイシーのロマンスであって、この話においてはフィンとジェイクはほぼ脇役に近い扱いなので…。
とはいえ、この号はあくまで1つの「区切り」であって、例えば「主人公フィンとジェイクの物語の終点」みたいなAT全体を完結に導くようなストーリーを書く意図はそもそもない、ということなのでしょう。
これは作中でまさにマーセリンが「エンディングが嫌い」と言ったこととリンクしていると思っています。例えばフィンとジェイクの物語が行きつく先、いかにも最終回らしい最終回を描いてしまったら、納得はできるかもしれないけれど、それってどこか寂しくなってしまうはず…。
こういう「まだまだ続けられそうな余地を残す(まだまだ終わりじゃないよ)」という幕引きこそ、ある意味ATにはふさわしかったのではないでしょうか。
バブルガムやビーモの言葉でたびたび示されているように、この最終回は物語の完結ではなく、むしろこれからもAT世界の物語はずっと生まれ続けていくことを力強く語ったストーリー。アドベンチャータイムはいつまでも終わらない物語、どこまでも冒険が続いていく作品なのだと思いますし、そうであって欲しい思いがあります。
さて、アドベンチャータイムの無印コミックシリーズはこのIssue75でひとまず連載終了を迎えました。
…そして7年の休眠期間を経て、2025年からOni pressにて新しいコミックシリーズがスタート!
A new Adventure Time comic-book series ‘The Land of Ooo’ will launch by Oni Press.
— ToonHive (@ToonHive) 2025年1月10日
The first issue will release on April 9th. pic.twitter.com/wgGDvr2yKV
ビーモやバブルガムの言ったとおり、冒険が終わって、また新しい冒険が始まったのでした。今後もコミックで新たに語られるアドベンチャータイムの物語に注目ですよ。