ふるやの森

あまり他で扱われていない事柄、個人的に書き留めておきたい内容など

アドベンチャータイムの日本語翻訳コミックの紹介

アドベンチャータイムはアニメだけに留まらず、コミックもたくさん発表されています。

内容としては、アニメのエピソードをコミック化しているわけではなく、どれも独自のアナザーストーリーが展開されていて、アーティストの個性が強く現れた作品もあったり、アニメとはまた違ったアドベンチャータイムの世界を楽しむことができます。

日本でも、いくつかの作品が翻訳されたのですが、それら日本語版コミックをまとめて紹介しているサイトは意外と無いようなので、自分で書いてみました。

なお、オリジナル版の発表日などは、Adventure Time Wikiの「Adventure Time (comic)」の項目を参考にしています。

ADVENTURE TIME

書誌情報

発行日:2015年3月10日

発行:株式会社KADOKAWA

オリジナル版発表期間:2012年2月8日(Issue1)~2012年5月16日(Issue4)

著:ライアン・ノース(作)

  シェリイ・パロライン(画)

  ブラデン・ラム(画)

訳:伊藤里香

これは「ADVENTURE TIME」というタイトルそのままで、サブタイトルがつかないコミックシリーズです。いうなれば「無印コミックシリーズ」でしょうか。

一般的に、アメコミは一冊に一話が収録されている「リーフ」という小冊子の形で刊行されており、本シリーズも2012 年 2 月のIssue1(第一号)から始まり、2018 年 4 月のIssue75まで発表されました。

4~5ヵ月分の号をまとめた単行本(TPB)も出版されていて、そちらは「Vol.」という巻数表記になっています。

そしてKADOKAWAより出版された本書は、そのVol.1を日本語に訳したもので、Issue1~4までを収録しています。

 

この一冊を費やして描かれるのは、復活したリッチとの戦い!

リッチは何もかも吸い込んでしまう袋を悪用し、フィン・ジェイクをはじめ、ついには地球そのものまで袋の異空間の中に吸い込んでしまいます。フィンとジェイクにバブルガムやマーセリン、いつものメンバーが団結してリッチを阻止するために戦うことになります。

…と、こう説明するとなかなかアツい展開に思えるのですが、地球規模のデカいスケールの問題であるわりに、実際に読んでみるとかなりゆるい作風です。凶悪なはずのリッチとの対決も、ピンチやタメもなくポンポン進んでいくので、正直言ってあんまり盛り上がらない感じ…。

どちらかというと、リッチとの対決そのものより、所々の小ネタやギャグのほうが魅力的と思えます。

たとえば、冒頭はアニメ版のオープニングのパロディ!

「あのオープニングはこんな風にジェイクがカメラを持って撮影してたんだよ!」という解釈で描かれているんですね~面白い。

さらにはキャラクター紹介ページもアニメ版オープニング最後のシーン「冒険だよ!アードベンチャーターイム!」のパロディという凝りよう(よく見ると「ウー大陸」まで混ざって紹介されてるのがじわじわくる)。

また、メタなギャグ・楽屋落ちがやたら多いのも笑いどころで、袋になんでも吸い込んでいくリッチが漫画の枠線まで吸い込んでたり、漫画のコマの外側に「もしこのコミックに音声が付いてたら、マーセリンの演奏を聞いて感動して泣けたのに!」みたいな作者からのメッセージがしょっちゅう書かれてたり、こういうメタネタって、まあアニメ本編のほうではやらないですよね。コミックならではの表現・魅力になってます。

そういうわけでVol.1は物語としてはノリきれないところがあるんですが、ところどころの小ネタにはファン心をしっかりくすぐられます。アニメとはまた違った楽しさでアドベンチャータイムの世界を広げてくれる作品で、やっぱり好きですね。

ただ、アメコミにはよくあることとして、1ページのセリフ量が多めです。基本的に、日本の漫画みたいにスラスラと読めるようにはなっていなくて、腰を据えて1コマ1コマをじっくり読んでいくタイプの作品です。読み通すのはけっこう根気がいるので、この日本の漫画とのスタイルの違いが、肌に合わない人は合わないだろうと思います。

ADVENTURE TIME 2

書誌情報

発行日:2016年10月19日

発行:株式会社KADOKAWA

オリジナル版発表期間:2012年6月20日(Issue5)~2012年10月24日(Issue9)

著:ライアン・ノース(作)

  シェリイ・パロライン(画)

  ブラデン・ラム(画)

訳:伊藤里香

 

前巻に引き続き、無印コミックシリーズのVol.2を日本語に訳したものです。

今回はissue5~9を収録しており、2つのお話を読むことができます。

①…フィンとジェイクが自分たちと似て非なる謎のキャラクターに出会う短編。フィンとジェイクを合体させたような外見のアドベンチャーティムに、ゲーム機型ロボットのアルン(ALN)、さらにはネズミを使うマイスキングまで登場!フィンたちに似てるようで似てない不思議な彼らって、いったい…。

シュールな内容で個人的にもお気に入りのエピソードです。アドベンチャーティムの絶妙なパチモノ感が好きw

②…タイムマシンで大騒動の話。バブルガムを発明したタイムマシンをジェイクが乱用し、ついにはなんとロボットと戦争状態の恐ろしい未来に来てしまった!はたしてフィンとジェイクは未来を正しい方向に戻すことができるのか!?

あらすじのとおり、BTTFみたいなタイムスリップものです。さまざまな時間世界をまたにかけた冒険は中々に壮大でサラっと描いてるけどアニメのミニシリーズにもひけをとらない規模の話。このエピソードに限らず、とにかくスケールのデカい長編を読めるのが無印コミックシリーズの魅力です。これはそのままアニメ化しても面白そう。

未来の成長したフィンの姿は、「愛は勝つ」の回でフィンの妄想として一瞬出てきた義手のムキムキマッチョのイメージを再登場させているのがナイス。つくづくファンの面白がるツボを突くのが上手い。

メタなギャグも相変わらず面白くて、タイムマシンで戻り過ぎちゃってアニメのパイロット版の時代まで戻ってしまうというくだりには笑いました(パイロット版見てない人にはわからないだろ!)。

本シリーズの単行本は全部でVol.17まで存在するのですが、残念ながら日本語版の刊行はこのVol.2で終わってしまいました。

アドベンチャー・タイム マーセリン&ザ スクリームクイーンズ

書誌情報

原題:「Marceline and the Scream Queens」

発行日:2017年5月29日

オリジナル版発表期間:2012年7月11日(Issue1)~12月12日(Issue6)

発行:株式会社フェーズシックス

著:メリディス・グラン(作・画)

訳:ローズ・賢

これは「スピンオフ(spin-off)」というシリーズに属し、その第一弾です。上で紹介した無印コミックシリーズをメインとして、その派生・番外編という扱いですね。

本作の主役はマーセリン!彼女が率いるロックバンド「マーセリン・アンド・ザ・スクリーム・クイーンズ」の初めてのライブツアーが実現し、バブルガムもマネージャーとして同行することに。そんなツアー中に巻き起こるバンドメンバーの人間模様、ミュージシャンとしてのマーセリンの苦悩と栄光を描いたストーリーで、まるっきり音楽青春ドラマのノリです。

音楽情報誌の手ひどい批評にマーセリンがショックを受けたり、バンドが有名になるために大物プロデューサーに売り込もうとしたり、奇想天外なアドベンチャータイムの世界と妙にリアルな音楽業界モノの組合せがシュールな味を出してます。

個人的にも特に気に入っている作品で、とにかく絵がかわいらしいです。このコミックのマーセリンやバブルガムはほんと可愛いんですよね!それでいてアニメの絵柄に忠実な画風で描かれているのも良いです。

マーセリンのコミックとしてファンサービスの要所はきっちりおさえられていて、ステージ上のマーセリンはとてもクールにかっこよく描かれているし、故郷ナイトスフィアや父ハンソンまで登場してくるし、マーセリンとバブルガムのつかず離れずな友情も描かれていたり、マーセリン好きには強くおすすめできる内容。「100%マーセリン!」という惹句に偽りなし!

ただし、わりと初期(2012年)に発表された作品なので、その後のアニメ版と照らし合わせると矛盾する点もいくつかあります。

例えば、バンドのギター担当キーラはマーセリンと同じヴァンパイアですが、「Stakes」においてマーセリン以外のヴァンパイアはすべて退治されていることが明かされたので、今となってはなかなか違和感のあるキャラ設定(人間と共存できるヴァンパイアが他に存在していても、おかしくはないですけどね)。

また、最初バブルガムはマーセリンの音楽にまるで理解がない態度で描かれてるのですが、これも「固い絆」でのバブルガムは昔っからマーセリンのファンだったという設定とは矛盾することになります。

あと、バブルガムがバンドメンバーの男と結構いい関係になったりするというのも、人によっては解釈違いかな、と…。

まあ元よりこういうコミックは、アニメとは正式につながらない、パラレルなストーリーとして楽しむのが良いのでしょう。

なお、同じグラン氏がストーリーを執筆した「Marceline Gone Adrift」という続編的な作品も存在します(そちらは未邦訳)。

アドベンチャー・タイム プレイングウィズファイア 

書誌情報

原題:「Playing With Fire」

発行日:2017年8月14日

オリジナル版発行日:2013年5月15日

発行:株式会社フェーズシックス

著:ダニエル・コルセット(作)

  ザック・スターリング(画)

訳:ローズ・賢

帯にも書いてありますが、本作「プレイングウィズファイア」は、「オリジナルグラフィックノベル」というシリーズの第一弾です。

グラフィックノベルといえば「通常は長く複雑なストーリーを備えた、しばしば大人の読者が対象とされる、厚い形式のアメリカン・コミックを指す用語」…と、ウィキペディアの記事にも説明されていますが、スカポン太さんのブログを参考にすると、このシリーズに関してはモノクロ・書下ろし単行本形式である点など「日本マンガ的なスタイル」であることを意味しているようです。

本書「プレイングウィズファイア」も、オリジナルは日本のマンガのようにモノクロなんですね(※本国では、当初モノクロで発表され、後にカラー版が刊行されたようで、この日本版はそのカラー版のほうを日本語に翻訳した、ということみたいです)。

 

楽しいカーニバルキングダムに遊びに来たフィンとフレイムプリンセスだが、怪しいドラゴンの占い師によってフィンがヒーローの心を盗まれ、チビの怠け者になってしまう。自分らしさを失ったフィンの心を取り返すため、フレイムプリンセスが占い師の潜む迷宮に挑む!…というお話。

作画担当のザック・スターリング(Zachary Sterling)氏はアドベンチャータイム関連書籍やコミックではおなじみの人物。アニメに忠実なかわいい絵柄で、数多くの作品で絵を担当しています。

さめざめと涙を流したり、目をくりくりと輝かせたり、怖い顔で怒ったり…フレイムプリンセスの喜怒哀楽が表情豊かに描かれているのが魅力的です。

ちなみに、アニメのATではあまり見られないような顔の描き方が出てくるのも特徴で、こういう所もなるほど「日本マンガ的なスタイル」ですね。

「フィンがフレイムプリンセスを助ける」…のではなく、フレイムプリンセスがフィンを助けるというストーリーも新鮮で良いです。悪王フレイムキングを父に持つフレイムプリンセスが悪の誘惑を拒み、苦難にぶつかりながらもフィンを救おうとヒーローとして成長していく姿が描かれており、強い女性が活躍するATらしい内容。

ただ、お話としては、そんなにシリアスでもなく、じつに素直な展開というか…悪くいうとちょっと他愛ない感じです。

本作に限らず「オリジナルグラフィックノベル」シリーズそのものがそういう作風なのですが、無印コミックシリーズや「スピンオフ」に比べると、低年齢の読者を想定して描かれているようなんですね。セリフも少なくて小さい子でも読みやすいのは良いのですが、アニメ版AT後期の子供向けとは思えないハードさ、ブラックさといった面には欠けるので、その意味では少々物足りないかと思います。

…で、シーズン5を視聴済みの方はご存じのとおり、フィンとフレイムプリンセスは「夢のお告げ」の回で破局するわけなのですが、「夢のお告げ」は2013年8月5日が初放送なので、この「プレイングウィズファイア」は2人の恋人関係が終了する3ヶ月弱前というタイミングで世に出てるんですね。刊行当初に買った人は、まさか数か月後に2人が破局するとも思わずに2人の仲睦まじい様子を眺めていたんでしょうね・・・。

一方、日本版は2017年という、既にフィンとフレイムプリンセスが別れたことが周知している時期に刊行されたので、翻訳自体は嬉しいことではあるものの、「今頃フィンとフレイムのカップル時代の話というのは…」とわりと微妙な気持ちになったのは否定できないのでした。

アドベンチャー・タイムプレゼンツ フィオナ&ケイク

(表紙のモアレみたいなのは、付けてるビニールブックカバーのシワです…)
書誌情報

原題:「Fionna & Cake」

発行日:2017年10月13日

オリジナル版発表期間:2013年1月2日(Issue1)~2013年6月3日(Issue6)

発行:株式会社フェーズシックス

著:ナターシャ・アレグリ(作・画)

訳:ローズ・賢

 

スピンオフシリーズの第二弾で、タイトル通り「フィオナとケイク」の性別反転世界を描いたコミックです。

ある夜、ファイヤーライオンたちがアイスクイーンに追いかけられているのを見つけたフィオナとケイク。勇敢なフィオナによってアイスクイーンは退散したものの、ファイヤーライオンたちは連れ去られ、フレイムプリンスはネコみたいな小さな姿に変えられてしまう!フィオナは友人のマーシャルリーやプリンスガムボールと協力し、フレイムプリンスを元の姿に戻し、彼の一族を救うためにアイスクイーンの城へと向かう…というようなお話です。

ケイクがマーシャルに対して「まだ怒っている」というセリフがあるように、時系列としてはシーズン5の「フィオナとマーシャル・リー」より後の出来事を描いているみたいです(確認してみたら、「フィオナとマーシャル・リー」の初放送が2013年の2月18日で、マーシャルの「ケイク、まだ怒ってるのかい」発言が載っているIssue3が3月6日発売なので、「フィオナとマーシャル・リー」放送後、すぐにコミックのほうへと話が繋がるように展開されてたんですね)

 

さて、本作が素晴らしいのは、なんといってもフィオナとケイクの生みの親であるナターシャ・アレグリ氏が直々に執筆していること!

ナターシャさんの絵はとにかく上手でおしゃれでキュートで、私はこの方の絵が大好きなんですよね。ほんと素敵な絵で、憧れます。

https://www.tumblr.com/natazilla/14650678517

natazilla.tumblr.com

https://www.tumblr.com/natazilla/22674748280

natazilla.tumblr.com

そんなナターシャさんの絵を一冊丸ごと堪能できるこのコミックは私としても特別な一冊。日本語翻訳版が刊行されるより前に、英語表記のオリジナル版も先に入手して読んでいたので色々思い入れがある作品です。

当然、ナターシャさんが直接手掛けていることでその趣味というか作風がよく表れたコミックになっており、フィオナは丸っこくむっちむちだし、マーシャルやガムボールたち男性陣はスラっとしたイケメンでカッコよく、男女問わずキャラクター達に色気があります。コロコロと小さい体型のデフォルメが多用されるので、アニメのアドベンチャータイムよりさらにファンシーでゆるかわな雰囲気が強めですね。

もちろんフィオナが好きな人にはマストな内容になっていて、パジャマ姿からおなじみの青スカート姿、さらにはファイヤーライオンの着ぐるみに入ったり、美しいロングヘアーをあらわにして戦ったり、場面場面でフィオナのいろんなコスチュームを見られるのが嬉しい!

本作は以降のアニメ版に与えた影響も大きく、フレイムプリンスの登場は本作が先。「超絶イケメンのランピープリンス(これは本当に笑ってしまう!)」もアニメに先んじて登場しています。

コミックの中でもこれは特におすすめできる作品。絵に一目惚れしたら買って損なし、と思います。お話も素敵ですよ。

アドベンチャー・タイム ピクセルプリンセス

書誌情報

原題:「Pixel Princesses」

発行日:2017年12月1日

オリジナル版発行日:2013年11月6日

発行:株式会社フェーズシックス

著:ダニエル・コルセット(作)

  ザック・スターリング(画)

訳:ローズ・賢

グラフィックノベルシリーズの第二弾です。

帯にも「世界初フルカラー化!」と書いてありますが、もともとオリジナルの本は「プレイングウィズファイア」と同じようにモノクロで、日本での出版にあたり独自にフルカラー化したようです(クレジットを見ると着色も日本人の方が担当されたみたいでした)。

ある日ランピーは自分で自分のサプライズパーティーが開催したものの、出席したのはタートルプリンセス、ブレックファーストプリンセス、マッスルプリンセス、赤ちゃんプリンセス、ガイコツプリンセスの5人だけ。しかもタートル以外の4人はみんな乗り気じゃないことがわかってランピーはガッカリ…。

ちょうどその時、パーティーに招かれなかったビーモはなんで自分がプリンセスではないのかとその身を嘆き、「プリンセスになりたい、内なるお姫さまがほしい!」と願うと、それがマジックマンによって叶えられて、ランピーたちがビーモ内部のゲーム世界に閉じ込められてしまう!元に戻るにはここでゲームのステージをクリアしていくしかない!はたしてランピーたちは皆で力をあわせてゲームの世界から脱出することができるのか?…というストーリーで、普段は脇役のプリンセスたちにスポットを当てた異色の内容です。

思えばビーモの中に入ってゲームの世界にチャレンジするというストーリーは「ゲームに夢中」以来ですね。

それぞれのプリンセスが自分の強みを活かしてゲームをクリアしていく筋書きで、持ち前の腕っぷしの強さで敵を倒していくマッスルプリンセス、舌鋒鋭く相手を言い負かす赤ちゃんプリンセス、小動物も冷酷に殺してしまう鉄の心を発揮するガイコツプリンセスなどなど、アニメではこれといった出番のなかったプリンセスたちの活躍する様子が見られるのが嬉しいところです。

キャラ同士の関わりとして見逃せないのは、アニメよりも先にランピーとブレックファーストプリンセスの関係が描かれていること!

本作ではブレックファーストプリンセスは由緒正しく気位の高いプリンセスの代表として、ビーモに対して「プリンセスになれない」とハッキリ言ってしまったり、迷惑なことばかり引き起こすランピ―に怒ってキツく当たってしまうのですが、そんな彼女も最終的にランピーやビーモと和解できるので一安心。アニメよりも出番あるしキャラが立ってます。

サブキャラ好きな私にとってはちょっとマイナーなキャラたちが活躍する本作は好きな作品で、特にラストシーンがいいんですよね。問題がすっきり解決して心温まる、とても良い終わり方になっています。フィンやジェイクといった、主役たちは出てこないという点で物足りない人もいるかもしれませんが、オススメできる作品です。

ちなみにこのコミックが刊行された翌年2014年、アニメでは「マーセリン&ランピー」が放送されるわけなのですが、本作でランピーとブレックファーストプリンセスが和解していて良い話になっているだけに、この後「マーセリン&ランピー」でブレックファーストプリンセスがランピーをバカにしたり、ランピーのほうもやりたい放題いたずらをやり返すくらいに関係が悪化していくというのは、あんまり考えたくないんですよね…。

まあ、そもそもコミックのストーリーはアニメとは正式に繋がらないという前提で読むものなのですが、個人的には「マーセリン&ランピー」の後日談が「ピクセルプリンセス」、と勝手に解釈して読んでます。

ところで、ここから先は余談。「Hero time with Finn and Jake」という本にはプリンセス名鑑のページがあって、そこのランピーの項目には、「こんにちは、ランピー。私が言いたいのは、私たちって、いつも仲が良いというわけじゃないのはわかってるけど、それはあなたが鼻もちならなくなってしまうから。でも、私はあなたを親友の1人だって思ってる。いつでもあなたの力になるわ。永遠に姉妹でいてね?」という、ブレックファーストプリンセスからランピーに宛てたメッセージが書かれているのです。

ランピーのことを親友、姉妹と呼び、ランピーの性格に辟易しながらも深い友情を感じているブレックファーストプリンセスの様子が感じ取れますが、これってどうも本書「ピクセルプリンセス」で描かれたランピーとブレックファーストプリンセスの関係を念頭に置いて書かれているようです(アニメのほうだとランピーとブレックファーストは、そんなに友情が深いようには描かれてないので)。

Hero time with Finn and Jake」はBrandon T. Sniderという人の書いた本で、アニメ本編のスタッフではないため公式的な設定とは言えないかもしれませんが、ランピーとブレックファーストプリンセスが険悪そうで本当は仲が良いというのは素敵だなと思っていて、この「ランピーへのメッセージ」は好きなんですよね。

アドベンチャー・タイム ペパーミントバトラーの事件簿

(表紙ではバブルガムが倒れてるけど、本編は全然こんな話じゃないんだよね)
書誌情報
原題:「Candy Capers」

発行日:2018年5月26日

オリジナル版発表期間:2013年7月10日(Issue1)~2013年12月11日(Issue6)

発行:株式会社フェーズシックス

著:アナンス・パナガリア(作)

  ユウコ・オオタ(作)

  イアン・マクギンティー(画)

訳:ローズ・賢 

  ホール・美紗衣

スピンオフシリーズの第三弾です。

ある日のキャンディ王国、プリンセスバブルガムに会いに来ていたフィンとジェイクが突然行方不明になってしまった!プリンセスバブルガムの命を受け、ペパーミントバトラーとシナモンパンのコンビが消えた2人を探すことに。マーセリンやツリートランク、アイスキングにスーザンまでも動員して捜査を進めていくが、なかなか事件は解決へと向かわない。はたしてフィンとジェイクはどこにいってしまったのか?ヒーロー不在のキャンディ王国は大丈夫なのか!…という(一応)ミステリーものです。

作画担当のイアン・マクギンティーは、本作のほか、後期の無印コミックシリーズでも絵を担当していた方です(実は2023年に若くして亡くなられました)。アメコミらしいポップなスタイルで、日本的なカワイイも兼ね備えた絵が魅力的です。線が太くてアニメのATとはまた違った方向性なのですが、日本人から見ても見ても馴染みやすい画風じゃないかと思いますね。

あらすじを読んでのとおり、「ルートビアの推理日記」「キャンディ王国の事件簿」などのアニメのミステリー回を想起させる内容。ペパーミントバトラーはフィンとジェイクの足取りを追おうとしますが、ガチョウ店長からカジノに潜入してくれとか頼まれたり、これは重要な手がかりが得られると思ってたら全く無駄骨に終わったり、ランピーとレモングラブを動員したらいつの間にか捜査とは関係なくいちばん高貴なオオカミ族を決めるサミットを開くことになったり、遅々としてなかなか真実にたどりつくことができません。

まあその真実というのも、帯の背には「衝撃のラスト5ページ!」とアピールされてるんですけど、これも実を言うと先が読めてしまう(というか途中でわざとバラされている)ので、実はそんなに衝撃のラストにはなっていなかったり…。

つまり、手がかりを積み上げ真実を手繰り寄せていくようなマジメなミステリーではなくて、真実は何かということよりも、この脱線していく捜査の過程こそがむしろメインなんですよね。

読む前はちゃんとしたミステリーなのかと思っていたので、実際に読んでみて期待とハズれたところはありますが…。このドタバタこそが狙いなんだとわかると楽しみ方もわかってきます。

本作がユニークなのは、ペパーミントバトラーとシナモンパン、マーセリンとツリートランク、ランピーとレモングラブ、アイスキングとスーザンなど、アニメでも普段やってないような組み合わせが見られること!

これは意図的に珍しい組み合わせにしてるんでしょうね。個人的にツリートランク&マーセリンコンビがお気に入りで、ヤル気のないマーセリンと、ヘンテコな発言が飛び出すツリートランクとの掛け合いが楽しいw

本作はわりとコマ割りも大きめでサッサと読めそうに思えるのですが、基本的にはやっぱりじっくり取り組んでいくタイプの漫画です。一般的な日本の漫画のペースで読もうとすると、情報を拾いきれなくて「何が起こってるのか、何のことを言ってるのかわからない…」みたいな状況が起こって引っかかっちゃうんですよね。

早くオチまでたどり着きたいと急いで読もうとするのではなく、絵とセリフをじっくり眺めて楽しむのが良いかと思います。ペパーミントバトラーやシナモンパンたち、でこぼこコンビのズレたやりとりが、だんだん愛しくなってきますよ(たぶん

アドベンチャー・タイム シーイングレッド

書誌情報

原題:「Seeing red」

発行日:2018年10月14日

オリジナル版発行日:2014年3月5日

発行:株式会社フェーズシックス

著:ケイト・レス(作)

  ザカリー・スターリング(画)

訳:ホール・美紗衣

  ローズ・賢

グラフィックノベルシリーズの第三弾です。

ある日、マーセリンに招かれたジェイク。マーセリンがこの前ナイトスフィアで家族の集まりに出席したときに、愛用のベースを忘れてきてしまったというので、一緒にナイトスフィアを訪れる2人。ところが、マーセリンの父・ハンソンアバディアが質屋にベースを売ってしまったことが判明!ハンソンが何故そんなことをしたのかもよくわからないまま、マーセリンとジェイクはベースを取り戻すためナイトスフィアを奔走することに…というストーリーです。

日本語翻訳されている4冊のグラフィックノベルシリーズのなかでは、個人的に一番好きな作品であり、グラフィックノベルシリーズらしいテンポの良さ・読みやすさに加えて、小粋なセリフの数々が軽快で、読んでいて楽しいです。

本作の魅力は、謎に包まれたマーセリンとハンソンの家族関係やナイトスフィアでの生活の一端を垣間見られること

ナイトスフィアのマーセリンのお部屋が見られたり、アニメではまったく出てこなかったハンソンの親族たちやマーセリンの友人が登場してきたり、質屋とかライブハウスまであったり、魔界のわりにナイトスフィアがけっこう普通の世界として描かれているのが可笑しいところ。

初登場!?ハンソンの親族たち

そして後半描かれるのは、マーセリンの「あのベース」にまつわる知られざる物語。ベースはどういう経緯で作られたのか、なぜマーセリンはこのベースを取り戻すことにそこまでこだわるのか、そしてなぜハンソンはベースを売っぱらってしまったのか?…謎の真相が明らかになるとともに、マーセリンとハンソンの間にあったわだかまりも一気に解消される素敵なラストを迎えます。

ただし、基本的に、コミックの描写はアニメ版のストーリーに正式に組み込まれないことになっているので、これら本作に描かれるナイトスフィアやハンソン関連の描写は、飽くまでシナリオ担当のケイト・レス氏が想像を膨らませて考えた、公認二次創作的な立ち位置です。

本作の描写は出版された2014年時点ではアニメ版と特に矛盾するところもなく、「シーズン4で気まずく別れたマーセリンとハンソンも、後でこんな風に和解できたんだよ」というほっこりな後日談として受け取れたのですが、最終回まで放送された今となっては、アニメ版とは一致しないパラレルなストーリーとして読むことがはっきりしてしまったように思います。

例えば、このコミックより後に放送された「マーシーとハンソン」ではハンソンが久々に再登場したのですが、ハンソンとマーセリンの親子関係は距離のあるぎこちないものとして描かれていて、「シーイングレッド」のラストでキレイに和解した2人の様子からはちょっと繋がらないんですよね…。

とはいえ、個人的に、アニメの「マーシーとハンソン」がマーセリンとハンソン親子の物語の結末としてはイマイチしっくり来なかったところがあって、その点ではこの「シーイングレッド」の終わり方のほうが好ましいとも思っていて、正史じゃないと切り捨てるのはやはり惜しい内容。

「こういうマーセリンとハンソンの物語もいいな」というIFの物語として楽しいコミックになっているので、興味のある方は是非読んでみるのをおすすめしたいです。

アドベンチャー・タイム ビタースイーツ

書誌情報

原題:「Bitter sweets

発行日:2020年2月28日

オリジナル版発行日:2014年11月5日

発行:株式会社フェーズシックス

著:ケイト・レス(作)

  ザカリー・スターリング(画)

訳:ホール・美紗衣

2020年に刊行されたグラフィックノベルシリーズの第4弾です。

現状、これが最後に出版された翻訳コミックとなっています。

キャンディ王国の地下には4つの王国からそれぞれ集められた4つの宝石が置かれており、この宝石のパワーがキャンディ王国に繁栄をもたらしていた。10年に一度の宝石の力を復活させる時期が訪れ、プリンセスバブルガムとペパーミントバトラーは「シー王国」「ベジタブル王国」を来訪し、それぞれの国で宝石の力をチャージする式典を済ませていくが、2つの国の人々はなんだか怪しい様子…。そうして3つ目の目的地「精霊の森」を訪れると、森からすっかり光が失われて閑散としていることに驚いたバブルガム。森の統治者プリンセス・ファンによれば、シー王国とベジタブル王国の者たちが、精霊の森が持っていた魔法の光や石を盗んでいったという!精霊の森を元に戻すため、バブルガムは2つの王国へ魔法の力を取り返しに向かう…というような話です。

プリンセス・ファンは英語だと「Fern」
つまり、草のフィンである「ファーン」と同じ名前です

これまでの3冊と比べて一番ファンタジー、寓話的な作風ですね。

主役はおなじみプリンセス・バブルガム。友人たちが実は自分たちの国を繁栄させるために精霊の森から魔法の力を盗んでいたことを知り、頭脳とリーダーシップを発揮して事態を解決していこうとするバブルガムの活躍が光ります。バブルガムの相方として、いちいち過激な発言が飛び出すペパーミントバトラーの腹黒さも笑いどころ。

主役のバブルガムが出ずっぱりの活躍を見せてくれるし、場面場面で衣装チェンジもあって、バブルガムが好きな人に本書はおすすめできる内容。オリキャラのプリンセス・ファンもかわいいです。

先の気になる筋書きで退屈せずに読めるのですが、やはり低年齢を意識したグラフィックノベルシリーズらしい素直な作風であり、良くも悪くもシンプルなストーリーとなっていて、物足りなさはあります。

全体としては平凡な作品という印象なのですが、このコミックにはユニークところもあって、最後の描写が少々異彩を放っているんですよね

なにかと言うと、ラストにかけての展開で説明が省かれていて、何が起こっているのか一見してよくわからないように描かれており、何事かと読者に想像させる結末になっているんですね。

ただ、英語でも調べてみてもこのラストの展開について特に論じているページとかは見つからず…一応、私の解釈を書いてみると(→以下ドラッグして反転させて読んでください)「バブルガムはフィンのキャンディソード、マーセリンの歌、ガムボールの番人の光線など様々なエネルギーを一挙に集中せ、そして自らが調合した化学薬品をふりかけることで、都市を繁栄させる「魔法の象徴」を新しく3つ作り出した。「象徴」のうち2つベジタブル王国とシー王国にそれぞれ譲渡することで、キャンディ王国と同様の繁栄が二国にも得られるようにした。残り1つの「象徴(黄色い宝石)」は、シナモンパンによってペパーミントバトラーの手に渡り、ペパーミントバトラーは宝石の力を使って儀式を開始し、魔法陣からなにかを召喚しようとしている(という不穏な未来を予期したオチ」…って解釈でいいんでしょうか?

他の人はラストにどういう感想を持ったのか、わりと気になるところではありました。


 

以上で、日本で発売されたコミックの紹介でした。

わりと日本ではマニアックな位置にあるアドベンチャータイムの、そのコミック版というさらにマニアックな商品を全体の一部とはいえ計9冊まで翻訳・出版してくれた出版社さんには感謝したいところです。

しかし、未邦訳のコミック作品のほうが圧倒的に多いのは事実で、欲を言えばやはりもっともっと日本語版を出してほしいと望んでしまうのも人情…。

無印コミックシリーズはVol.2までしか翻訳されなかったけど、本国ではVol.17まで刊行されてるし、スピンオフは「Marceline Gone Adrift」「Beginning of the End」「Season 11」「Marcy & Simon」などなど魅力的な作品はまだまだあるので、このブログで少しづつ紹介していけたら、と思っています。