ふるやの森

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「OH MY GLOB」のGLOBって?…アドベンチャータイム世界のグロブ・ゴブ・グロド・グローブ信仰について

ランピー関連のグッズを見ていると「OH MY GLOB」と書かれているものが目につきます。

私もアドベンチャータイムにハマり始めたころ、ヴィレッジヴァンガードでこのステッカーを見て「”GLOB”ってなんだ??」と思ったものでした。

実は、マジックマンの兄である四面の巨人『グローブ・ゴブ・グロブ・グロド(Grob Gob Glob Grod) 』は、アドベンチャータイムの世界では(つまりGODの立ち位置)としてウー大陸の人々から崇められているという設定があるらしいんですね。

例えば、アドベンチャータイムの用語集である「Adventure Time: An Algebraic A to Z」でも、Grob Gob Glob Grodの項を見ると「in some parts of ooo are worshipped as gods.(ウー大陸の一部の地域では神として崇拝されている)」と説明されています。

「Adventure Time: An Algebraic A to Z」より

グローブ・ゴブ・グロブ・グロドは「火星の子供たち」の回で初めて姿を見せますが、それ以前からオリジナル版では、その名前が既にセリフに登場していました。

ただし、日本語吹き替え版では、登場人物がグロブとかゴブとか呼ぶシーンは基本的にそのまま訳されてはいません。

ありがたいことに、FandomのAdventure Time Wikiの「Grob Gob Glob Grod」の項目には、アドベンチャータイムのエピソード中でグローブ・ゴブ・グロブ・グロドが言及されたシーンがまとめられています。今回はそれを参考に、グロブたちの名前がどんな場面で登場しているのか、それが日本語吹き替え版ではどのように言い換えられているか、興味深い箇所をピックアップして確認してみます。

 

1話Bパート「コブコブ星で大騒ぎ」

今日が大事なダンスパーティーだったことをメリッサから聞かされたランピーの「そうだった、忘れてた」というセリフは、オリジナルだと「Oh Glob. I forgot.」で、これがグロブという言葉が作中に初めて登場した瞬間です。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
26話Bパート「本当に愛は勝つ?」

バブルガムにとりついたリッチの本性を目にしたジェイクが驚いて「なんだあれ!なんだあれ!なんだあれ!」と叫ぶシーンは、オリジナルだと「Oh my Gob, oh my Gob, oh my Gob!」で、ここではグロブではなくゴブの名が呼ばれています。

34話Aパート「君の悲鳴が聞こえない」 

病院で目が覚めたフィンが、キャンディ王国に人がいないことに気付いて「みんな教会にいるのー?お祈り中ー?」と声を発しますが、これはオリジナルだと「Are y'all at church, worshiping Glob?(みんな教会にいるの?グロブにお祈り中?)」と言っています(どんな教会なんや)。

35話Bパート「運命の日」

ジェイクが「フィン、死んだら俺様の魂は世界中どこへだって行けんだ、神様の裁きを待ってる間にな」と言いますが、この「神様の裁き」はオリジナルだと「glob tallies my deeds(グロブが俺の行いを集計する)」です。

 

また、死の運命を受け入れたジェイクが「俺様があの世に行っちまうのを止めることはできねえんだ」と言いますが、これもオリジナルだと「but you're not gonna stop me from transcend in to Glob world!(俺様がグロブ・ワールドに超越するのをお前が止めることはできねえんだ)」と言っています

50話Aパート「あんたのせいだ!」

レモングラブが服を引き裂きながらバブルガムに向かって叫ぶ「あんたのせいだ!あんたのせいだ!あんたがこんな僕にした!あんたのせいだー!」は、オリジナルだと「You made me! You made me! You're... my... Glob! You're my Glob!(あんたが僕を作った!あんたが僕を作った!あんたは…ぼくの…グロブだ!あんたは僕のグロブだ!)」と叫んでいます。

 

また、寝ているクランチーをバブルガムが監視カメラ越しにスピーカーで起こしたときに、クランチーが「レモングラブ?お前なのか?」と呟きますが、オリジナルだと「Glob is that you?(グロブ、あなたなのですか?)」で、つまり本来はバブルガムの呼びかけを神様の言葉だとクランチーが勘違いしているというギャグだったようです(もしかすると翻訳者の方が、Globをレモングラブの意味と勘違いしたのかも…?)。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
52話Bパート「君を忘れない」

歌っているアイスキングが「天の神よ、わしの何がいかんのじゃ」と嘆きますが、Blu-rayの字幕だと「天の神」は「Gron in the sky」です。

GronとはGrodかGrobの言い間違いだと思われますが、ちなみにストーリーボードを見ると「Grob in the sky」と書かれていました。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
55話Bパート「フィオナとマーシャル・リー」

姿を隠したマーセリンがやったイタズラに驚いたアイスキングが「神よ、疑ってすまんかった。あんたは本当におるんじゃな」と言いますが、オリジナルだと「I'm sorry I didn't think you were real, Gob.」で、神=ゴブです。

59話Aパート「あいつは鳥男」

鳥のカルダモンを助けようとしてザギオックが岩から転がり落ちてしまったときに発した「なんてことだ!」は、オリジナルだと「Mother of Gob!(ゴブの母よ!)」と叫んでいます。

「ゴブの母」とはなんとも妙な響きですが、英語では驚きを表す場合に「Oh My God」と同じ意味で「Mother of God(=聖母マリア)」と言ったりすることに習っただけで、あまり深い意味はないのでしょう。

64話Aパート「彼女は島女」

また、漂着した島全体が女性であることに驚いたアイスキングの「うわ、おい、ちょっと待ってくれ!」は、オリジナルだと「Sweet mother of Glob!」と言っています。今度は「グロブの優しき母よ!」ですね。

88話Bパート「幽体飛行」

幽体状態のフィンが、グロブに「ねえ、全員の名前おしえてよ」と尋ねると、グロブは「グロブとゴブとグロドとグローブ」と答えますが、この会話はオリジナルだと全然意味が違います

本来フィンは「do you ever say "Oh my Glob?"(オーマイグロブって言ったことある?)」と聞いていて、グロブたちが「No, but sometimes Gob does.(いや。だが、ゴブはそう言うこともある)」と答えているシーンでした。要するに、「神様もオーマイゴッドって言うの?」的なギャグシーンだったんですね。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

また、エピソードの最後にグロブが彗星に突撃して散った後、フィンが「グロブが死んだ」とつぶやきますが、これは単に起こった出来事をそのまま述べてるんじゃなくて、グロブ=神なので、哲学者ニーチェの有名な言葉「神は死んだ」のパロディ台詞の意味合いがあるらしいです。

90話Aパート「ぜーんぶジェイク」

ジェイクの体内に住む学者エリックアダムキムソンが、ジェイクの体外へ出発する前に「これから私はジェイクの世界へ行ってくる」と言いますが、この「ジェイクの世界」はオリジナルだと「Jake's Glob world(ジェイクス・グロブ・ワールド)」です。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

また、外の世界に出たエリックアダムキムソンが、スクリーンに映っている動物を神だと思って呼びかけたときのセリフ「偉大なるジェイクの神々よ」も、オリジナルだと「Jake Globs(ジェイク・グロブス)」です。

102話Bパート「ウーの王のキノコ指令」

歌をうたって儀式をしているキャニオンを見て、ジェイクが「こりゃ大昔の儀式かなんかだぜ」と言いますが、オリジナルだと「Looks like some sort of old Glob ritual.(大昔のグロブの儀式かなにかみたいだ)」と言っています。

104話Aパート「ビーモはカウボーイ」

カウボーイになり切ったビーモが「エンジェルフェイスはかつて神から逃げた男」と自分のことを語りますが、この「神」もオリジナルだと「Glob」です。

105話Aパート「ヴァンパイア・クイーン」

自分をヴァンパイアではない体にしてほしいというマーセリンの頼みを聞いたバブルガムが「やだ…うそでしょ」と驚きますが、ここはオリジナルだと「Oh my Globness」と言っています。 

英語圏では、神の名をみだりに呼んではならないという考えに従い、驚いたときに「Oh my God」ではなく「Oh my goodness」とも言ったりするそうなので、そのことですね。

110話Bパート「うつろな目の少女」

ジェイクがうつろな目の少女たちに参ってしまって、「うつろな目のばけものども!」と罵倒しますが、オリジナルだと「you globless blank‐eyed girls!」と言い放っています。これは「Godless(神を恐れぬ、不信心)」の意味で、「グロブをも恐れぬ黒い目の少女ども!」という感じでしょうか。

129話Aパート「事のはじまり」

4つの元素に覆われたウー大陸を目撃したジェイクは、驚いて「こいつはいったい何なんだ?」と言いますが、オリジナルだと「What in Grod's name am i looking at?(グロドの名において、俺様は何を見てるんだ?)」と言っています。グロドの名前が出てくるのは珍しい例です。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

 


 

ここまで脚本中にグロブやゴブの名前が登場する箇所をいくつか挙げてみましたが、実際のところ…「GODという単語を、ただGLOBとかGOBと言い換えているだけ」の場合が多いです。

例えば「Mother of Glob」にしても、単純に慣用句の「Mother of God」のGodをGlobに入れ替えただけで、聖母マリアよろしくグロブの母親とかが本当に想定されているというわけではたぶん無いでしょう。

つまり、登場人物たちが「グロブ」や「ゴブ」と言った時に、それは「神様という意味の一般名詞の場合」と、「グローブ・ゴブ・グロブ・グロドのキャラクターを指している場合」と、使われ方が2種類あるわけなんです。エリックアダムキムソンのセリフ「Jake Globs(ジェイクの神々)」も、神を意味する一般名詞としての「Glob」の用法ですよね。

アドベンチャータイムの登場人物が「God」のことを「Glob」や「Gob」と言うのは、おそらく当初は、現実とは違う言葉使いをさせることで作品の異世界性を演出するくらいの意図だったんだと思います。シリーズが始まった時点から、グローブ・ゴブ・グロブ・グロドのキャラクターまで既に構想されていたとは、あんまり思えないんですよね。

「アドベンチャータイムの世界では、ゴッド(神)のことを、グロブやゴブって言うもんなんだな~」と、視聴者に認識させ(それに深い意味はないと思わせつつ)、「じつはそのグロブやゴブって、グローブ・ゴブ・グロブ・グロドっていう異形の巨人だったんだよ!」と後出ししてくるのが面白さだったんだと思います。

 

ところで、個人的に気になるのが、「運命の日」の回でジェイクが喋った内容によれば、「人間はその死後、生前の行為をグロブに集計される」「グロブの世界(Glob world)とは、死後の世界」であると示されていること。

まあこれってキリスト教的な「最後の審判」や「天国」の観念であんまり深い意味はないのかなとも思うのですが、もしここでジェイクの言うグロブが、そのままグローブ・ゴブ・グロブ・グロドのことを指していると考えると、なかなか興味深いです。

「幽体飛行」の回で、幽体状態になったフィンの存在をグロブは認識していたし、実はグローブ・ゴブ・グロブ・グロドは死後の世界を司る存在なのかもしれません。