ふるやの森

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【アドベンチャータイム】日本語吹き替え版と英語版のセリフの違い

 

アドベンチャータイムの吹き替え版はもちろん大好きで、声優さんたちの演技も素晴らしく最終回まで楽しませてもらったのですが、やはり翻訳作品の常として、セリフがオリジナルの英語版そのままとはいかず、意味が変更されたりしています。

この記事では、吹き替え版でセリフの意味が変更されているシーンについて、興味深い箇所をいくつか紹介してみようと思います。

 

8話Aパート『人生のお楽しみ(What is Life?)』

フィンのアイスキング城への潜入を助けた風船たちは、笑顔で「それじゃあまたねー」「ちょっと、しぼんできちゃった」と言って空へと昇っていきますが…実はこれ、オリジナルだと「またねー」どころか「イェーイ中間圏へ!」「ついに死ねる!」と言って自分たちが滅ぶことを喜んでいるシーンです。

この風船たちがこれ以降、二度と再登場しなかった理由がわかりますね(死にたかったのか、風船たち…)

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
16話Bパート『スローな愛にしてくれ(Slow Love)』

・スノーロックに男女の会話の手本を見せようと、ジェイクがメスのカタツムリに化けて「私、素敵な殿方に会いたいと思ってたの」と作り声でしゃべりますが、オリジナルだと「タツムリとの交尾について考えていたの」と言っています(フィンが「やめろ!」と強く拒絶するのも納得…)

・また、ジェイクとのロールプレイをフィンが拒否すると、スノーロックが「代わろうか?」と言ってきますが、実はここもオリジナルだと「きみ(ジェイク)と交尾したい」と、あけすけなことを言っています。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
18話Bパート『ご両親にご挨拶(Her Parents)』

終盤、フィンとジェイクがレイニコーン両親と謎肉を食べるシーンの会話は、実はオリジナルだとけっこう怖い内容です。

日本語吹き替え版だと、 ジェイクが皿に盛られた肉を見て「で、こりゃ何の肉?」 とけげんな顔をしながら尋ねると、レイニコーン母が「知らなーい?これは"豆の肉"よ」 「見た目はちょっと味気ないけど、懐かしい味がしておいしいの」と答え、そして肉を食べてみたジェイクは「フィン、これ美味いぞ!」と目を輝かせながらフィンに語りかける…という流れになっています。

ところがオリジナルだと、 肉を見てジェイクは「これ、人間じゃねえのか?」と言っており、それに対してレイニコーン母は「あら、これは"ソイピープル"よ」 「私は人間を食べたことはないけど、違いがわからないと言われているわ」ということを答えていて、肉を食べてみたジェイクは「フィン、お前って美味いな!」と言っているんですね。

さっきフィンを食べようとしていた両親が、今度は人間と味の区別がつかないというソイピープルをおいしそうに食べているという状況がなかなかホラーだし、ソイピープルを食べてみたジェイクが「お前って美味いな(人間っておいしいんだな)!」と屈託なくフィンに言うあたりもブラックで笑ってしまいますが、これを日本語版ではそのまま表現するのはアウトと判断されたようです。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
23話Bパート『映画を僕と共に(Go with Me)』

結構有名な話ですが、マーセリンがバブルガムに「ハロー、ボブルガム」と声をかけるシーンは、オリジナルだと「ハロー、ボニベル」と呼んでいました。

「ボニベル」とはバブルガムの本名ですが、シーズン2の時点では吹き替え版の翻訳者の方も、これがバブルガムの本名だとは知らなかったのでしょう。マーセリンがバブルガムをからかってヘンな名前で呼んでいるシーンなんだと思って、もっとわかりやすく「ボブルガム」という呼び名にしてしまったようです。

一見バブルガムと険悪そうなマーセリンは、実は本名を知っている(気軽に本名で呼んでも許される)くらいにバブルガムと親密な関係であったことがさりげなく示されているシーンであったのが、吹き替え版ではそのニュアンスがいまいち伝わらなくなっているのは残念ですね。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
28話Bパート『必殺お仕置き人(Hitman)』

・このエピソード、フィンとジェイクを一発殴ってやりたいと思ったアイスキングが、自分の代わりに2人をヒットして(=殴って)くれと頼んだつもりで、「ヒットマン(=殺し屋)」のスコーチャーに依頼を送ってしまい、ただ2人を殴ってほしいだけのアイスキングと、ガチで2人を殺そうとするスコーチャーのズレたやりとりが笑い所なのですが、日本語版では「ヒットマン(Hitman)」を「必殺お仕置き人」と訳しているので、このあたりのおかしさがいまひとつ理解しにくくなっています。おそらく、日本語版だと「殺し屋」とか「ヒットマン」といった物騒な表現を使えないのでしょう。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

・後半、スコーチャーは紙を1枚残して去っていき、吹き替え版ではアイスキングがその紙に書かれた文章を見て「人を呪わば穴二つ?」と呟くのですが、映像をよく見てみると別にそういうことは書かれていません(実はアイスキングが呟くのは日本語版固有の演出で、オリジナルだとこのシーンでアイスキングは無言です)。

紙には「Echoes of past events nudge the tiller on my present course I await its reflection in the future.」と書かれています。「過去の出来事の残響が、私の現在の進路を耕している。私はそれが未来へと反映されるのを待つ」…とかそんな意味でしょうか。 深読みすると、アイスキングの過去がいよいよ明かされるという前フリである気もします。

スコーチャーがこういう意味深で詩的な文章を残していくというのがシュールな笑いなんですが、日本語版ではわかりやすく「スコーチャーはアイスキングの行動を『人を呪わば穴二つ』と揶揄して去っていく」という話の流れにしたようです。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
34話Aパート『君の悲鳴が聞こえない(No One Can Hear You)』

エピソードの最後に、バブルガムが「私があの鹿にキスを許さなかったの。それでこの騒ぎ」と語りますが、オリジナルだとここは「鹿は私たちの砂糖を欲しがったけど、私は何も与えなかったの。言ってる意味わかるでしょ?」…と話しています。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

つまりあの鹿はキャンディ王国の砂糖を舐めたかったのに、それを拒否されたのでキャンディーピープルたちをベトベトに固めて自由を奪い、舐めまくっていたということだったんですね(最初にスターチーを舐めてるシーンからも理解できます)。

ただ、最後にPBが「if you know what I mean(言ってる意味わかるでしょ)」と言ってからチュッチュッとねず鳴きするシーンがあり、なにやら言外の意味があることを仄めかしてるのが気になる点です…。  

おそらく吹き替え版の翻訳をした方は、PBの言う「鹿が砂糖を欲しがった」というのを言葉通りの意味ではなく「鹿がキスを求める」ということだと思って、「私があの鹿にキスを許さなかったの」と訳したんじゃないかと思います。

ただ、私の解釈としては、たぶん鹿は単に砂糖を舐めたかっただけで、PBが最後に言いたかったのは「私たちの体をペロペロと舐められちゃうから拒否したのよ(ほら、言わなくてもわかるでしょ?)」ってことなんじゃないかと考えているのですが、どうでしょう?

40話Bパート『二人のために世界はあるの(Dream of Love)』

・ツリートランクと引き離されたブタさんが酒場で「元のひどい暮らしに戻るしかないか」と呟きますが、実はここはオリジナルだと「犯罪者を食べることに戻ると思う」と言っています。
ブタさんは「りんご泥棒」回で初登場した時は犯罪組織に飼われており、フィン達を食べるために連れてこられていましたが、どうやら本当に生きたままの人間や死体を食わされる仕事をさせられていたんですね(怖!)

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
43話Bパート『パパのやんちゃ娘(Daddy's Little Monster)』

記憶を失ったフィンとジェイクが、ケータイの録画を再生していると、怪物化したマーセリンに襲われるシーンで、ジェイクが「やべえぞ、気を付けろ」と叫びますが、オリジナルだとここは「俺様の海馬が!(my hippocampus)」と言っています。

海馬といえば、記憶に関わる脳の器官です。つまり、フィンとジェイクが記憶を失っていたのは、海馬になんらかの攻撃を受けたためだったようです。

日本語版は海馬のくだりを訳してないので、録画を見返した後でジェイクが「記憶をなくしちまったわけはわかったけどよ」と納得している理由がわかりにくくなってますね。

ちなみに「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」では、サイモンと出会った時のマーセリンは過去の記憶を無くしていたことが記述されていますが、これもナイトスフィアのお守りが持つ能力となにか関わりがあったのかもしれません。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
47話Aパート『火星の子どもたち(Son of Mars)』

・マジックマン(※中身はジェイク)に対して、火星の王が「昔は実に立派な男だったのに、マルグリスと付き合ってからお前はすっかり変わってしまった」と嘆きますが、ここはオリジナルでは「マルグリスとオリンポス火山で過ごしたあの夜までは、本当にクールな男だったことを覚えている」と言っていました。

過去にオリンポス火山でマジックマンとマルグリスに何か事件が起こったことが、この時点で既に示されている重要なセリフですが、日本版だと「マルグリスと交際したことでマジックマンの性格が変わってしまった」というような口ぶりになっているので、ちょっと本来の意味からズレてしまっています。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

・また、ジェイクが死んで現れたフィンを見て、グロドが「マブダチってのはお前か!」と言いますが、オリジナルだと「The one you were prophesied to meet!」で、「出会うと予言されていた者ってのはお前か!」というセリフでした。

このグロブが言う「予言」とは何のことかというと、どうやらタイトルカードに描かれている謎の石板のことらしく、フィンとジェイクが火星に現れることは予言されていたようです

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
56話Bパート『デイヴィーの平凡な一日(Davey)』

冒頭でドラゴンを倒したフィンに、ジェイクが「悪い奴に好き勝手させちゃなんねえぞ」と声をかけると、フィンは「うーん。うん」となんかしっくりこない曖昧な返事をします。

なんでフィンはこんな微妙な反応なのでしょうか?

じつはオリジナルだとジェイクは「悪い奴に好き勝手させちゃなんねえぞ」ではなく「 Don't let the dragon, drag on,」というシャレを言ってます

ジェイクは面白いと思ってシャレを言ったんだけど、聞かされたフィンのほうはうまく返せず「う、うん…」となってしまってるシーンなんですね。

しかし後半、デイヴィーは、そのつまんないシャレがきっかけでジェイクのことを思い出しフィンへと戻ることができました。

これはただのつまんないシャレがフィンとジェイクを再び繋ぐ言葉になる、というギャップが面白いので、吹き替え版の「悪い奴に好き勝手させちゃなんねえぞ」だと普通過ぎる気がしますね。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
63話Bパート『愛が全て(The Suitor)』

この回、吹き替え版では、エピソードのラストでペパーミントバトラーが「私のブラコを返して!!」と怒ってPBにビンタするという唐突かつ意味のよくわからない終わり方になっており、戸惑った人も多いと思いますが、オリジナルのセリフを見れば、ペパーミントバトラーが怒った理由が理解できます。

吹き替え版でペパーミントバトラーは、ブラコを「イケメンに変えてくれ」と悪魔に言うのですが、オリジナルだと「歩く愛の磁石( walking love magnet)」に変えよう、と言っています。つまり、単純なイケメンというわけではなく、磁石みたいに他人を惹きつける存在にしてくれ、という意味だったようです。そして「歩く愛の磁石」に変わったブラコを見たペパーミントバトラーは見事に魅了されちゃったらしく、日本版だと「とても魅力的になりました」となってるセリフは、オリジナルだと「あなたとの赤ちゃんが欲しい!」ってペパーミントバトラーは言ってるんですね(!)

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

また、最後にペパーミントバトラーが言った「わたしのブラコを返して!」もオリジナルだと「You should have given him to me!」で、本来は「わたしに彼(ブラコ)を譲ってくれればよかったのに!」って意味で怒っていたワケです。

日本語版は「ペパーミントバトラーがブラコに魅了され愛してしまった」…というところを拾ってないので、ラストのビンタがすごく唐突になっているわけですが、まあ、ペパーミントバトラーがブラコに「赤ちゃんが欲しい」とか言うのもちょっと生々しいし、不穏当と判断されたのもしかたない気はします。

ただ、実際のところ日本語版の「ペパーミントバトラーが唐突にブラコへの愛を語りだしてバブルガムを殴る」っていうのも、意味不明だからこそ面白くて、個人的にこれはこれで笑えるので、悪くないと思っています(ATみたいな作風だと、しかたなくそうなっている説明不足の唐突な展開や不自然なシーンも、ギャグとして成立してしまうので、ある意味得ですね)。

71話Bパート『赤が欲しい!!(Red Starved)』

赤いルビーだと思って緑のエメラルドを持ってきたフィンに対して、吹き替え版だとジェイクが「お前、目が悪いんだな、でもあんまり気にすんな」と言いますが、オリジナルだと「You're a little color blind.And there's nothing to be ashamed of.」…つまり「お前、ちょっと色覚異常なんだな、でも恥じることじゃねえよ」と、ハッキリ言っています。

フィンはいわゆる「色弱」という設定であるようです。これを書いてる私自身が色弱なんですが、色弱だと明るい場所だとちゃんと色がわかっても、暗い場所だとその区別が苦手だったりするんですよね。フィンも、明るい場所なら赤と緑がちゃんとわかるんだけど、暗い地下では間違えてしまったんでしょう。

日本吹き替え版は、「color blind(色盲/色弱/色覚異常)」をぼかして「目が悪い」と訳したわけですが、ここに限らず、日本吹き替え版では現実の病名や体質名を出すのは基本的に避けているようです。

ただ、なんでわざわざフィンが色弱という設定がここで登場したのかを想像すると、この作品を見ている色弱の子供たちへ向けたメッセージなのだと思います。「フィンみたいな人気アニメの主人公でも色弱だったりするんだよ」という描写があることで、現実の色弱の子どもたちが勇気づけられる部分はやっぱりあると思うんですよね。フィンの親友であるジェイクも「恥じることじゃない」と言ってくれていますし、色弱は決して珍しいものではなく、引け目に感じたり深刻に気にしたりすることは無いんだ…と励まされるのではないかと。その点から言うと、日本語吹き替え版も、ここは「目が悪い」とぼかしたりせず、「色弱」あるいは「色の区別が苦手なんだな」とはっきり言わせたりしてもよかったんじゃないかな、と思ったりします。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
73話Bパート『悪魔の血(The Pit)』

ジェイクがサマンサと対面するシーンで、吹き替え版だとジェイクが「わんこ…いぬ…ジェイクだ!」と名乗るセリフは、オリジナルでは本来「J・T…」と名乗りかけていて、ちょくちょく作中に登場する本「Mind Games」の著者「J・Tドーグゾーン」が、実はジェイクであることを示唆するシーンでした。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
78話Bパート『あの頃に戻りたい(Bad Timing)』

ランピーがキャンディ王国城を襲撃したとき、バブルガムはジョニーに「あなたはテーブルクロスの下に隠れてて。そこに特別なガムがあるから、悪者がドアを壊したらそれを噛むのよ」と言いつけますが、このガムはオリジナルだと「シアン化物入りのガム(cyanide-laced gum)」となっています(毒物!)。

つまり…バブルガムはどうやら「敵がドアを破って侵入してきたら、敵の手にかかって殺される前に、自分から毒を飲んで死になさい」と、もしもの時には自死するようジョニーに案内していたんですね。

まあ、太平洋戦争中の集団自決とかを想起させますし、ちょっと過激すぎて吹き替え版ではここを「特別なガム」とぼかしてしまったのも仕方ないなと思います…。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
87話Bパート『リッチな坊や(Gold Stars)』

序盤のシーン、ウーの王様が手下のトロントのことを「きみは人を見る目があるな。それに忠実だ」と褒めますが、オリジナルだと「忠実」ではなく「good dog(良い犬だ)」と言っています。

そう、トロントって実は「犬」なんですね!

トロントを犬だと裏付ける資料として、製作スタッフのSteave Wolfhard氏は「ツリートランクの結婚式」の「没になったトロントの初登場シーン」を公開しているのですが、そこでもトロント柴犬(Shiba Inuであると書かれています。

ほとんどの視聴者はトロントのことをリスだと思っていたんじゃないでしょうか?私もトロントをリスだと信じて疑わなかったので、犬だと知ったときは結構驚きでした。

おそらく、吹き替え版で翻訳を担当した方もトロントをリスだと思っていて、リスであるはずのトロントが「good dog」と呼ばれているのがピンとこなくて、「犬=人間に忠実」という比喩だと解してこのセリフを「忠実だ」と訳したんじゃないかと思います。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
88話Aパート『エバーグリーン(Evergreen)』

恐竜のガンターに「あなたはぼくのパパ?」と聞かれたエバーグリーンの返答は、吹き替え版だと「違う。お前に魔法をかけてそう思わせているだけだ」ですが、オリジナルだと「違う。だが、私はお前の卵を盗んでお前の脳を突然変異させたのだ」と言っていて、どうしてガンターは他の恐竜と違って2足歩行して喋れるのか?という疑問の説明になっていました。

卵を盗んだり脳を突然変異させたというあたりが、残酷だからそのまま訳さなかったのでしょうか。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
93話Bパート『とある日記(The Diary)』

ジェイクとTVが日記を読んでいるシーンで、破られる直前のページの筆跡を見てTVが「eの形が崩れてる」と言いますが、ここはオリジナルだと「eが全てcrab(カニ)になってる」と言っています。

この後のシーンで、ジェイクたちが、日記の持ち主であるBPの過去を勝手に想像して「彼女はカニの手になった」と言い出すくだりがあって、なんでカニの手なんだ?と思っていたんですが、つまり「eがカニになってる→手がカニになったんだ!」って連想だったんですね。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
99話Aパート『バブルガムの失脚(Hot Diggity Doom)』

・「バブルガムの失脚」、選挙で負けたバブルガムが怒ってウーの王様やトロントたちを「ロクデナシ」呼ばわりするシーンがありますが、これはオリジナルでは「dillweed」と言っています。dillweed(ディルウィード)とは卑劣な人間への罵倒語だそうです。

その後、キャンディ王国を出ていくバブルガムに対して、フィンが「これからどうするつもり?」と聞くシーンがあるのですが、オリジナルだとそういうことは言っていなくて、「ディルウィードが何かわからないんだけど…」と聞いています。つまり、本来ここは「バブルガムが大変な目に遭ってるのに、いま聞くことかよそれ!!」って感じでフィンがボケてるシーンなんですね。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
116話Aパート『剣のフィン(I Am a Sword)』

AT115話「剣のフィン」、吹き替え版では盗賊プリンセスが「あたしは生まれつき病気持ちで、父親にも母親にもキスしてもらえなかった」と身上を語りますが、オリジナルだと「自分は生まれつき狂犬病で、そして両親は自分を愛してくれなかった。なぜなら両親ともに伝染性単核球症(mono)だったから」ということを言っています。
伝染性単核球症は、唾液を介して感染するので別名「キス病」というそうで、「両親にキスしてもらえなかった」という日本語版の訳は、なるほどという感じです。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

また、最後のほうで吹き替え版ではビーモが「フィンはなんでこんな目に遭ったわけ?」と尋ねると、ジェイクは「世の中ってのはヘンテコでな、妙なことをするやつもいるってことよ」と答え、ビーモはさらに「ジェイクが言ってるのは、悪い奴はなんでか知らないけど悪いやつで、それが現実だってこと?」と言いますが、オリジナルとは会話の意味が結構違います。
まずオリジナルではジェイクのセリフは「BMO,it's a wooly bully world.people crazy always.」で「世の中ってのはウーリー・ブリーで、人々はいつも狂ってんだ」と言っています。「ウーリーブリ―」とは要するに意味不明な言葉(直訳したら『毛むくじゃらのいじめっ子』)なので、ここは「ヘンテコ」というニュアンスが合ってるのだと思います。
ただ、それに続くビーモのセリフは本来「you mean some people are just pure city sidewalk boom-boom from a rat donk and that's all there is to it?」で…つまり「ジェイクが言いたいのは、ある種の人々は清潔な都市の歩道にウンチする阿呆なネズミで、それが全てだってこと?」みたいな感じでしょうか。ジェイクの返答を聞いてビーモがヘンな例え話をする、というのがポイントなので、吹き替え版だとその面白さがあまり出てない気はします。

118話Aパート『お話パンケーキ(Five Short Tables)』

5つの短い物語が示されて、最後に共通するテーマはなんだったのかを問うという「キューバー回」を、キューバーじゃなくてアイスキングがやっているのがこのエピソードなのですが、終盤のセリフの意味が吹き替え版とオリジナル版とでだいぶん違います。

吹き替え版だと、アイスキングは「フィオナとケイクは朝食のテーブルにいた。ガムボールは周期表を調べておった。フレイムプリンスは本に火をつけてしまいおった。紫のヘンテコなヤツは咳の薬を飲みおった。アイスクイーンは結局フィオナとケイクに負けてしまいおった。誰かさんの真似をして聞いてはみたが、テーマなどなさそうじゃの。そうじゃ、テーマがないのがテーマなんじゃ」と言って、今回は秘密のテーマなど無いという結論でまとめてしまいます。

ところが、オリジナル版だとアイスキングの言ってることは違っていて、ちゃんとテーマが何なのか語っています

オリジナル版だとアイスキングは「フィオナとケーキは朝食をとって(at the breakfast table)いた。ガムボールは周期表(periodic table)を調べていた。フレイムプリンスは目次(table of contents)に火をつけた。紫色のやつ(ランピー)は...大さじ(tablespoon)1杯のシロップを飲んでいた。そしてアイスクイーンも...テーブル的なことをしたはずじゃ、たぶん…」てなことを言っていて、つまりそれぞれのエピソードで登場人物が「テーブル(table)」という言葉を使っているのが共通するテーマなんだよ、ということだったんですね(※アイスクイーンは「今そのことは保留にしないか」という意味で「Why don't we table this for now」と言ってるシーンがあります)。

で、吹き替え版でアイスキングが「テーマなどなさそうじゃの。そうじゃ、テーマがないのがテーマなんじゃ」と言っている部分は、オリジナル版だと「これらは普通の物語とは違う。短いんじゃ。こう呼ぼう...グレーブル...いや...テーブルスじゃ!(They're not like regular stories. They're shorter. I'll call them...grabl-- No -- tables!)」と言っているセリフでした(吹き替え版のセリフには反映されていないのですが、キューバーがホログラムピラミッドを使って見せてくる短い物語は「グレイブル(Grayble)」と呼ばれているという設定があります。グレイブルという言葉なんて知らないはずのアイスキングが、偶然その言葉を思いついてしまう、ってギャグなんですね)。 

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

それでラスト、一連のアイスキングの様子を見ていたキューバーは、吹き替え版だと「やれやれ、ひどい落ちだ。これじゃ私の評判まで落ちてしまうぞ」と悲しそうに呟いて終わりでしたが、本来のオリジナル版では「もう二度と、テーブルを前と同じように見ることはできないな…(I'll never look at tables the same way again.)」と言っていました。アイスキングが「短い物語のことをtablesと呼ぼう」と「テーブル」に勝手に新しい意味を付け加えたりしたから、キューバーは「もうテーブルを前と同じようには見られないな」…と感想を述べたわけです。

以上のように、本来はテーマの存在がちゃんと最後に明かされていたのを、吹き替え版ではそのあたりのニュアンスをばっさりカットして、「あると思わせた秘密のテーマが実は無くて、その宙ぶらりんな結論にキューバーがひどいオチだとツッコむ」という脱力系の笑いに変えています。

本来の内容に反して「テーマなんて無い」ということにしてしまうのはかなり大胆な変更じゃないかと思いますが、この回は、テーマ部分が「tableという単語とそれを使った熟語」という、英語固有の表現に基づくネタなので、日本語の会話には置き換えることが難しく、セリフの意味を大きく変えてしまったのも理解できることではあります。つくづく翻訳の難しさを感じます。

118話Bパート『父と娘のカード・ウォーズ(Daddy-Daughter Card Wars)』

・エピソードの最初のほうで、チャーリーがビーモのことをタロットカードで占っており、そこでチャーリーは「ビーモは男だって出てる」 という結果を告げたあとで 「ウソだよ。これは良い子って意味」とビーモに言うシーンがありますが、これはこの後のチャーリーのセリフを踏まえるとさらなる意図が見えてきます。 

ビーモが海に飛び込んだ時、吹き替え版だとチャーリーは 「ビーモが沈んじゃったよ!」と言うのですが、じつはオリジナルだとチャーリーは「彼女は石みたいに沈んでった!」と言っており、ビーモに女性を指す三人称「she」が使われています。

Madman Entertainment/『Adventure Time: The Complete Collection』より
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.

つまり、ビーモが男というのを「嘘だよ(kidding)」と否定して、さらにビーモを「彼女(she)」と呼んでいるあたり、チャーリーはどうやらビーモのことを女の子だとみなしているようです

元よりビーモはロボットであり決まった性別が無いユニセックスなキャラクターですが、こうして女性の代名詞で呼ばれているのは珍しいシーンだと思います。